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第223話

〈ここ最近、頭痛が頻繁に起きている。ただの風邪であれば良いけれど〉 〈頭が割れるように痛い。このままでは、じぃに気づかれて父やフィアナに報告されてしまうかもしれない。義姉上も毎日部屋にやって来て疲れたから、仕事を考えれば少し不便になるかもしれないが、やはり父上からいただいた別邸に移り住むべきだろうか〉 〈書類の提出を忘れていたと、同僚に言われて初めて気づいた。どうにも注意散漫になっている〉 〈アシェルは怒りっぽくなった、近寄りがたいと言っているのが聞こえた。イライラしていることが多い、前はそんなことなかったのに、とのこと。どうやら学生時代の知り合いであるらしい。前はどうかわからないが、確かに感情を抑えられないことがあるのは自覚している。僕をよく知るような口調だったから、友人だったのだろうか〉 〈書類の確認と提出を忘れていたらしい。このメモを見るかぎり初めてではないようだ〉 〈頭が痛い。痛くて、何も聞こえない。違えば良いと願ってこの冊子を買ったけれど、やっぱり予感は的中しているのだろうか〉 〈曇り。歩いていたら見知らぬ男性に声をかけられた。誰だかわからないが、彼は僕を知っているらしい。ビーシュ伯爵〉 〈雨。痛み止めが効かない。ガンガンと殴られているかのように頭が痛い〉 〈雨上がり。甘いものが食べたくて仕方がない。クリームなんて、前は欲しいと思わなかったのに〉 〈晴れ。書類をどこに提出したらよいかわからなかった。誤魔化したが、それも長くは続かないかもしれない。書類の提出はシーウェル殿。長い白髪に、青い瞳。少し見上げるほどの身長、おそらく七十歳ほど〉 〈曇り。フィアナが車椅子とモノクルを用意してくれた。もう歩けないとのこと〉 〈ウィリアム兄上が別邸を売りたいと言ってきた。どうやら経済苦であるらしい。一週間の内に支度を整えて本邸に戻れとのこと。ここでの使用人は解雇するらしい。せめて彼らが職に困らぬよう手配しなければ〉 〈晴れ。上司と思われる人が入ってきた時、誰かわからなかった。隣にいた同僚が名前を言っていて助かった。もう潮時なのかもしれない。王都から離れた場所に車椅子で生活できるだけの屋敷を買うこと。二人ほど使用人も必要であるだろうから、そちらも含めお金を貯めること。この件は誰にも知られないようにすること。上司の名前はサイラス様〉 〈晴れ。昨夜はお母さまに久しぶりにお会いした。フィアナはやっぱりお母さまに似ている。懐かしくて、でもお母さまはフィアナをお願いと血の涙を流しておられるから苦しかった。聞けば、昨夜は雨が降っていたらしい〉 〈曇り。ようやく資金が溜まった。田舎にも屋敷を買えた。使用人はじぃが選ぶと言っているが、嫌な予感がするので自分でも探しておいた。いざという時は契約できるようにしてくれるとのこと。派遣協会で、ベリルとマルタの二人〉 〈曇り。先程まで雨。お母さまが僕の手を掴んできたが、じぃであったらしい。なんとか誤魔化したが、何か勘付かれたかもしれない。仕事は辞表を出したが、陛下に三か月待つように言われた。何故かはわからないが、王命は絶対。この三か月を乗り切らなければならない。袖に隠れる場所に毎日この冊子を見るよう書いておくこと〉 〈医者に診てもらったわけではないが、もう疑いようもない。この事実すらも忘れてしまう時が来るかもしれないから、ここに明記しておく〉 〈僕は病を患っている〉 〈病の名は、ヒュトゥスレイ(雨の狂気)。不治の病だ〉 〈治療はしないこと。隠し通すこと。王都から離れること。フィアナに、僕の最期を見せないこと〉

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