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第225話
いつかは来るだろう。そう覚悟してはいたが、その瞬間は突然やって来た。
あの日は父が会議に出て不在ではあったが、父以外の皆は屋敷の中にいて、フィアナはようやく仕立てあがったドレスを着てご機嫌にアシェルの前でクルクルと回っていた。
「お兄さま、みてみて! お母さまと一緒のドレス!」
憧れた母のドレスを小さくして、更に可愛くしたような水色のドレスをいたく気に入ったのか、フィアナは使用人に髪も結ってもらって何度も何度もアシェルに見てほしいと言ってはクルクルと回った。そんな妹の姿に微笑んでいれば、思いついたと言わんばかりに瞳を輝かせて、フィアナはアシェルの手を掴むとグイグイと引っ張る。
「お母さまにもお見せするの! ね、お兄さまも行きましょう!」
きっと母は可愛いと言って褒めてくれるだろう。もしかしたら、かつて自分が着ていたドレスと似ていると気づいてくれるかもしれない。フィアナはワクワクと期待に胸を膨らませて早く早くとアシェルの手を引っ張るが、アシェルはどうしようかと視線を彷徨わせた。
フィアナは眠っていて気づいていないようであるが、昨日の夜遅くに両親が言い争う声をアシェルは聞いていた。否、言い争うというよりは悲鳴のような金切り声で何かを叫ぶ母を、父が宥めていたらいつの間にか強い口調になってしまったとでも言うべきか。結局それは明け方ごろまで続き、朝食の席に母の姿はなかった。もしかしたら今も、母は苛まれているのかもしれない。怒りか、苦しみか、忘却か。それは誰にもわからないけれど、少なくともフィアナに見せて良いものではないだろう。
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