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第226話

「フィアナ。お母さまにお見せするのも良いが、フィアナはお話ししはじめたら時間を忘れてしまうだろう? だから、お母さまにお見せする前にダンスの練習をしないか? もう舞踏会まで時間がないし、ダンスして気になるところがあったら、早く仕立て直しに出さないと間に合わなくなるから」  それはただ時間を遅らせたにすぎないが、今のアシェルに思いつくのはこれくらいしかなかった。この後どうすべきかと頭を悩ませるアシェルに気づくことなく、フィアナは少し寂しそうにしたものの、その通りかもしれないと素直に頷いて、アシェルの手をとったまま玄関へと向かう。 「じゃぁ、お庭で練習しましょう! お兄さまがダンスのお相手をしてね。良いでしょう?」  何か、遠くが騒がしい。そう思いつつも今はフィアナに集中しなければとアシェルは頷き、一番近い階段を降りた。  庭に出て、美しい花々に囲まれたガゼボに向かう。そしてアシェルは物語の王子様のように、少し大げさに礼をしてフィアナの手をとると、その甲に口づけを落とした。 「一緒に踊っていただけますか? 小さなお姫様」  物語のようなそれがフィアナのお気に召したのだろう、彼女はとても楽しそうにドレスを摘まんでアシェルの手に身を委ねた。  音楽も何もない、ただアシェルが口ずさむそれに合わせてクルクルと踊る。母に教え込まれたフィアナはとても優雅にドレスを翻し、アシェルも苦手にはしているものの迷いなく足を動かしてフィアナを支えた。

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