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第234話

 天井に届かんばかりに高い扉は重く、車椅子に座るアシェルには上手く開けることができない。結局開けるというよりは僅かに隙間を作った程度になってしまったが、くぐもって微かにしか聞こえていなかった声は鮮明に聞こえるようになった。やはり女性の声だ。 「あ、エルピス!」  エリクの焦ったような声が聞こえた瞬間、抜け出したのだろうエルピスがスルリと隙間から外へ出る。慌てたアシェルが追いかけようと扉を引くよりも早く、外側から力が加えられ、ゆっくりと開いた。そこにはご機嫌なエルピスを肩に乗せたルイがいて、彼も驚いたようにアシェルを見下ろしていた。アシェルには聞こえなかったが、どうやらエルピスはルイの声に気づいてお出迎えをしたかったらしい。アシェルと同じくらいルイのことも大好きなエルピスの甘えきった姿に、アシェルは思わず小さなため息をついた。 「ルイ、すまない。エルが飛び出していってしまって。お客様だよな? エルと一緒に奥に行っているから、ルイはお客様と――」 「あら、アシェル。ちょうど良いところに。私はあなたにも会いに来たのよ?」  ルイがほんの少ししか開けなかった扉の隙間から、ヒョコリと女性が顔をのぞかせた。アシェルより少し年上の、豪華なドレスや手にした扇の高価さをみるに公爵家か侯爵家のご夫人だろうか? それにしても、この高く結い上げられた髪はどうなっているのだろう。確実に地毛だけではないだろうが、あまりの高さと大きさに、どうやって崩さず維持しているのかとても気になるところだ。  そんな風に髪を見上げているアシェルの姿を女性から隠すように、ルイが少し身体をずらした。 「いいえ、アシェルは今から用事がありますから無理ですよ。アシェル、私もすぐに向かいますから少し奥で待っていてください」  お前も一緒に、と肩で懐いていたエルピスを抱き上げてアシェルの膝に乗せると、ルイはエリクに目配せをする。主の命令を正確に理解したエリクはひとつ頷いて、アシェルの車椅子を押して奥へ向かった。その姿を見送って、ルイは扉を閉めると驚いたように目を見開いている女性――メリッサに向き直った。

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