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第235話

「さて、ノーウォルト夫人。葬儀も爵位継承の儀式も済んだというのに、我が家に何用でしょう?」  常に礼儀を重んじるルイには珍しく、応接間に通すどころか玄関扉さえも閉ざしたままの彼に、しかし何も感じないのかメリッサはキョトンと首を傾げた。もっとも、頭が重くてほんの僅かに顔が動いた程度のことであるが。 「無事に侯爵位を受け継いだお祝いにパーティーをする予定ですの。それで、流石に王妃殿下は城から早々に出てこられないでしょうけれど、アシェルは一番融通が利くでしょうから、ウィリアムとジーノも含めてパーティーをどうするか相談しようと思って」  それは相談という名の資金援助要求だろう。ハンスが亡くなった際に訪れたノーウォルト邸はある程度の体裁は保とうとしているものの、閑散とした雰囲気は否めなかった。まだハンスやミシェルが健在だった時のノーウォルト邸は美しく光り輝いていたが、今はその面影も無い。だが、普通のパーティーとは違い、爵位継承のパーティーとなればロランヴィエル邸で行わねば外聞が悪いだろう。あの寂しくなったノーウォルト邸で侯爵としての面子を保つためのパーティーをするとなれば、どれほどの金銭が必要になるだろうか。  銀の食器に客人を満たし飽きさせないだけの美味しい食事やデザート、華やかにパーティーを彩る花々や細々とした調度品の数々、そして円滑に、かつすべてのことに対応できるだけの有能な使用人もそれなりの人数が必要になるだろう。  さて、仮にジーノが援助をしたとしてもそれらのすべてを今のノーウォルトは用意できるのだろうか、とルイが頭の中で計算していた時、メリッサは何の悪気もなく瞳を輝かせて言った。 「それに、パーティーにダンスは必須ですもの。日を決めてアシェルも練習をしなくてはなりませんでしょう?」  だから早く相談して決めなきゃ! と楽しそうにはしゃぐメリッサに、ルイはスッと表情を消した。紳士的で穏やかな笑みが消えたルイは凍てついた刃のように鋭く、流石のメリッサも驚いて目を見開く。そんなメリッサに、ルイは深く深くため息をついた。 「あなたのそれをアシェルは前向きなのだと言った。あなたの周りにいる者たちは皆、そう言ったのかもしれない。だが、私に言わせれば、あなたは前向きではなく無神経だ」  貴族としての性か、誰も口にしなかったことをルイは淡々と告げた。その顔に見下しや嘲りが無い分、なおさらその言葉は凍てついていて、メリッサはピクリと肩を震わせる。

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