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第236話
現役の、それも連隊長を任されている者の鋭い瞳にメリッサの身体はガクガクと震え、その瞳には涙が浮かんでいる。その姿を見れば憐れだと言う者もいるかもしれないが、ルイも、後ろに控えているベリエルも眉ひとつ動かさなかった。
「アシェルの足がどうなったのか、私ですら知っているというのに、まさか義姉であり一緒に住んでいたあなたが知らないはずはありませんよね? 知らないはずがないのに、あなたは何度も何度もアシェルにダンスをしろと迫る。何故ですか? 貴族であっても、ダンスは必須ではありません。アシェルなら皆が事情を知っているのですから尚更でしょう。アシェルが踊らなくとも、誰も何も言いません。それで面子が潰れることも、当然ない。なのに、アシェルが傷ついた顔をしてもあなたはダンスダンスとうるさいほどに言い続ける」
それが腹立たしくてならない。
「足が動かないことに一番嘆いているのも、痛みを耐えているのも、あなたでも我々でもなく、アシェル本人です。そのアシェルに、なぜ何度も何度も〝足は動かない〟のだと思い知らせるのです。それとも、あなたはアシェル本人に〝この足は二度と動かない〟と言わせたいのですか?」
「ちがッ――!」
「ではもう二度と、アシェルにダンスをしろだなどと言わないでいただきたい。必要な時は私がなんとかします。そもそも、社交に関してそちらが心配することは何もありません。アシェルは陛下もお認めになった私の伴侶。アシェルのことはすべて、我がロランヴィエルが責任をもちます」
ハンス亡き今、ノーウォルトの指図を受ける筋合いはない。王と王妃が認めている以上、アシェルは既にロランヴィエルの人間だ。そう断言するルイにメリッサは視線を彷徨わせ、ドレスを握りしめた。
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