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第237話

「でも、でもッ! 優しくするだけが愛情ではありませんわ! 時には厳しくしなければならない時だってありますものッ。たとえその時は辛くとも、後からその経験が必要だったとわかる時が来るのです。現に王妃殿下だって、私が行動したから母の死を乗り越え、立派な王妃となられたのですわ!」 「あぁ、幼い王妃殿下から母君の形見であるペンダントを取り上げたことですか?」  あの日、決定的な瞬間を目撃しなかったとはいえ、幼きフィアナにとって母の死は大きすぎた。元気をなくすフィアナが立ち直れるようにとアシェルを筆頭に皆が気遣い、支えようとした。喪も明け、人々の口からミシェルのことが出なくなり、そして葬儀の頃より伏せることの多くなった父が長兄のウィリアムに実質当主位を譲った頃、年頃であるからと元々予定していたようにウィリアムとメリッサが結婚した。貴族社会にとって女主人がいないということは不便なことが多いというのも理由のひとつだっただろう。当時のフィアナはまだ幼く、何より次の誕生日を迎えれば王子妃として城に住まい、未来の王族としての教育を受ける予定であったので、ノーウォルトの女主人の代わりをすることはできなかったということもある。  悲しみに包まれた屋敷が、華やかで明るくなるように。そんな願いと共にノーウォルトへやって来たメリッサであったが、彼女が最初にしたことがフィアナからよすがであったペンダントを取り上げて流れのある河に投げ入れたのは、貴族であれば誰もが知る話であった。当然ルイも、その話はラージェンから聞いていた。 「確かにあの時の王妃殿下は泣いておられましたけど、でもあれがあったからこそ王妃殿下は母君を忘れ、前を向いて歩くことができたのですわ! 今や陛下に溺愛される王妃殿下です。だから、アシェルにも厳しくしなければならない時だってあるのですわ! あの子の未来のためにッ!」  ペンダントがあるから、フィアナはいつまでたっても母を忘れることができない。忘れることができないから、何度も何度も記憶を掘り起こしてはその温もりを懐かしんで涙する。だが、そんなことでは前に進めない。今を生きる人間ならば、過去に囚われてはいけないのだ。だからメリッサは心を鬼にして、フィアナからペンダントを取り上げた。そして泣きじゃくって止めてと縋るフィアナの目の前で、河に投げ入れたのだ。すべてはフィアナのために! 「なぜそうまでして忘れなければならないのか、私には理解できませんね」

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