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第238話

「……ぇ」  忘れなければ人は前に進めない。そう信じているメリッサにとって、ルイの言葉は予想外のものでしかなかった。しかしルイはそんなメリッサを前に、言葉を止めることはしない。 「悲しみは、時と共に薄れていきます。それに、形見があるからこそ、思い出があるからこそ、乗り越えられるものがあるでしょう。確かに王妃殿下は素晴らしい王妃となられました。民が慕う、ご立派な王妃殿下です。ですが、それはあなたがペンダントを取り上げたからではありません。王妃殿下は今でも、あのペンダントを持っておられますし」  願い事が叶うというペンダントは、今もドレスの下に隠すようにして胸に下げられている。 「何ですって!? まさかあの河から見つけ出したとでも言うの!?」  あまりの事にメリッサは淑やかな態度を忘れ、目を見開いて叫んだ。あの流れのはやい河から物を探すなど至難の業だというのに、どうしてフィアナの手に戻ったというのだろう。 「いいえ、河からは結局見つからなかったそうです。王妃殿下が持っておられるのは、アシェルのペンダントですよ。母君がアシェルにも与えていたんです。王妃殿下の物とまったく同じペンダントを。だからアシェルはそれを河で見つけたと嘘をついて、王妃殿下に渡したそうです。もっとも、この話を私にしてくださったのは王妃殿下ご自身ですから、当時はともかくとして、今はもうお持ちになっているペンダントが自らの物ではなく、アシェルの物だとご存知でいらっしゃいますが」  隠して、誰にも見せないように。そう言ってペンダントを握らせてくれたのだと、フィアナは苦笑しながらルイに語った。 〝全身ずぶ濡れで帰ってきたと思ったら、着替えた瞬間に私を抱きかかえて城に連れてきてくれましたの。それで、ラージェンのお母さまと何かを話して、私にペンダントを握らせてくれましたわ。私は、愚かにもお兄さまが河から見つけてくれたのだと信じて疑っておりませんでしたの〟  そしてフィアナは、予定を早めてその日から城で住まうようになった。当時のことを、ルイは今でも覚えている。  ラージェンの話し相手として嫌々城に来ていたルイは、たまたまフィアナを抱き上げて足早に進むアシェルの姿を影から見ていたのだ。必死な顔で、落とすまいと妹を抱きかかえたその姿はルイの脳裏にこびりついて、離れることは無い。

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