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第239話

 ノーウォルトでは守れない。そう判断したアシェルの、苦肉の策。あの後アシェルは父であるハンスに勝手な事をしたと随分叱責され、何年か自由のない生活を強いられたようであったが、それでもフィアナは当時の王妃とラージェンに守られて、笑顔を見せるまでになった。メリッサやハンス、あるいはウィリアムやジーノですら絶対に認めないだろうが、当時アシェルがとった行動はフィアナにとって最善だった。もしもアシェルがフィアナをノーウォルトから出さなければ、今のフィアナはいなかっただろう。 〝ねぇ、ロランヴィエル公はご存知? お兄さまったら、ご自分に自由はなかったのに、お辛くないはずはないのに、私に会いに来られた時はずっと笑っておられるのよ? ずっと、ずーっと。それが逆に不自然だなんて、お兄さまはお気づきでなかったみたいですけれど。何もかも、お兄さまは嘘ばっかり。でも、それは全部私のためですから今になっても言い出せないんですの。このペンダントがお兄さまのものだと知っていると、お返しいたします、と。酷い妹でしょう? お兄さまは私の為にためらいもなくすべてを下さったけれど、私はお兄さまに与えられた、大切なお母さまとの思い出さえ、お返しできていませんの〟  悲しそうにペンダントを見つめるフィアナに、ルイはあの時なにを言うこともできなかった。下手な慰めなど、慰めどころか傷になりかねない。もしかしたらもう、アシェルはそのペンダントのことを忘れているかもしれない、なんて。

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