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第240話

「まさか……」  メリッサは今までずっと、自分の厳しい態度が今のフィアナを作っているのだと信じ切っていた。それだけに、ルイの話を素直に信じることができない。 「あなたがどう思おうと、我々には関係のないこと。パーティーのことはわかりました。ですがアシェルはすでにロランヴィエルの者。ノーウォルト侯爵のパーティーに口出すなど無作法というものでしょう。パーティーには招待状をいただいてから返事を出します」  ダンスの練習はもちろん、パーティーの話し合いの場にもアシェルを出す気は無いとキッパリ告げて、ルイはベリエルに目配せをした。 「ノーウォルト夫人。あなたも随分とお忙しいことでしょう。執事がお見送りいたしますよ」 「どうぞ、夫人」  ルイの言葉に、流れるようにしてベリエルがメリッサを促す。彼女はまだ何かを言いたそうにしていたが、聞く気はないとメリッサの対応はすべてベリエルに任せ、ルイは屋敷の中に入って行った。  パタン、と後ろ手に扉を閉めてルイは深く深くため息をつく。冷静に対応したつもりであったが、自覚しているよりも自分は怒り狂っているようだ。あのままメリッサの前にいれば、我を忘れて怒鳴ってしまっていたかもしれない。  努めて深呼吸をし、心を静めながら回廊を歩く。アシェルにこの怒りを悟らせてはいけない。  コツ、コツ、と響く自らの足音に耳をすませ、扉の前に立って最後にひとつ小さく息をつく。大丈夫、隠し通せる。 「アシェル」  静かに扉を開いて、エルピスと戯れているアシェルに声をかける。振り返ったその美しい瞳に、思わず笑みがこぼれた。 「おかえり、ルイ。といっても、帰ってくるには少し早いような気もするが」  今の時間帯はまだ軍務に従事しているはずではないのか? と首を傾げるアシェルを真似しているのだろうか、膝の上にいるエルピスもまた首を傾げている。その可愛らしい光景にクスリと笑って、ルイはアシェルの側にあるソファに座った。

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