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第243話
「こら、エル。これは駄目だ。これが無いと、僕は見えなくなっちゃうからね」
片目だけとはいえ、モノクルがなければアシェルは何も見えなくなるくらいには視力が低下している。技術大国であるバーチェラであっても視力を補う眼鏡やモノクルは高価だ。アシェルもこのモノクル以外で予備を持っているわけではないので、割れては一大事だ。
「さぁ、僕のモノクルで遊ぼうとしないで、一緒に城へ行こう。僕の、もう一人のお姫様を紹介するよ、小さなお姫様。きっとあの子も、エルを気に入ってくれるだろう」
優しく頭を撫でれば、クルクルと喉を鳴らしながらエルピスはご機嫌にアシェルに懐いている。怒られたことなど忘れた様子に苦笑していれば、なぜかルイが優しく髪を撫でてきた。視線を向ければ、とてもニコニコと微笑んでいる。
「……なんだ?」
「いえ、目の保養だなと」
可愛いですね、とエルピスを撫でるルイに首を傾げつつ、アシェルは小さく息をついた。
(流石にモノクルが割れると死活問題なんだけどな)
ロランヴィエルの財力であればどうということのない値段なのかもしれないが、流石に割れたからと強請るのは気が引ける。かといって、アシェルが自分で購入するには難しいんだが……。などとブツブツ胸の内で呟いていれば、急にエルピスごとアシェルの身体がヒョイと抱き上げられた。
「なにやら難しい顔をなさっていますね。あまりご体調が良くないようでしたら、このまま寝室にお連れしますよ? 王妃殿下には、私の方からお伝えしておきますから」
そう言って寝室に向かおうとするルイに、アシェルは慌てて止めるように胸をポンポンと叩いた。
「いや、大丈夫だから。別に体調が悪いわけじゃない。ただちょっと、モノクルが割れた時の……お金が、その……恐ろしいなと……思った、だけで……」
何を素直に話しているのかと情けなくなって、アシェルはだんだんと声を小さくしながらモショモショと誤魔化したが、生憎とルイの耳はとても良い。ほとんど聞こえなくなっていたアシェルの言葉を一言一句正確に聞き取って、クスリと小さく笑った。
「そのあたりはご心配なさらずとも大丈夫ですよ」
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