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第256話

「確かに、私はノーウォルトの現状を知っていると申し上げましょう。ですが、私からすればお披露目のパーティーは必ずしも行わなければならないものではありません。現に爵位を継いでもパーティーをしなかった貴族を私も何人か知っていますから。ジーノ殿とどのような話し合いをされたのかは知りませんが、それでも金銭が足りないというのであれば、パーティーをしないという選択をとられては?」  それで何がどうなるわけでもない。ノーウォルトの領地が没収されるわけでも、王妃たるフィアナの名に傷がつくわけでも、ラージェンの立場が悪くなるわけでもない。バーチェラは良い意味で個々を見るからだ。 「それは……、確かに理論上はそうなのですが、しかし、ノーウォルトの体面というものが、その、ありますので」  メリッサがやる気を出しているからかと思ったが、どうやらウィリアムの方もまた止めるという選択肢は無いらしい。 「それで、アシェルはロランヴィエル公爵家の人間になるのですから、金の支援を頼めないかと思いまして……。あ、もちろん公爵のお金ではなく、アシェルの持つ金銭の方です」  辞めたといっても、アシェルは文官だったのだ。それなりの給金を貰っていたはずである。アシェルが屋敷にいた時には不思議にも思わなかったが、今回パーティーを開くにあたり金が足りないと悩んでいた時、ふと疑問に思ったのだ。確かにアシェルはほぼ全額を家に納めていたが、彼の給金は本当にあの程度のものだったのだろうか、と。城の機関に勤める者が、それも新人でもないというのに。  不思議に思い侯爵の権限を少し使って調べてみれば、やはりアシェルの給金は把握しているものよりもっともっと多かった。アシェルの性格だ、きっと散財などせず貯めこんでいるに違いない。だが、アシェルは今ロランヴィエルにいるのだ。彼に必要なものは衣食住も含めロランヴィエル家が用意するのが当然というもの。ならば、その貯めこんだ金は使われることなく残っているはず。そう考えてウィリアムはいそいそとやって来たのだが、それを聞いたルイはクッキリと眉間に皺を寄せた。

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