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第257話
「かつてハンス殿が贈ったアシェルの別邸を奪い、売らせただけでは足りませんか? どれだけ弟から搾取すれば気が済まれるのか」
あの別邸があれば、アシェルの病は今ほど酷くなかったかもしれない。別邸を売った理由も、その背景も、ルイからすれば理不尽以外の何ものでもないのだ。
「搾取だなどと、そのようなことは」
「ない、と? では今回もアシェルからも、ロランヴィエルからも、資金援助があると期待はしないでいただきたい。そもそも、我々とあなた方とでは物事の考え方が違う」
アシェルの現状を知る為に調べれば調べるほど出てきたウィリアム夫妻の所業を思い出して、ルイは蘇ってきた頭痛を和らげるように紅茶を口にした。発作を起こしたアシェルが必死になって甘いものを口にする理由が、ほんの僅かに理解できたような気がする。何か甘いものが食べたくて仕方がない。
「私は借金をしてまでドレスや帽子を新調しようとは思いませんし、これからいくらでもお金が必要になる弟から金銭を強請ろうだなどとも思いません。車椅子もモノクルも、毎日使えば消耗品も同然ですから」
車椅子やモノクルに必要な代金はロランヴィエルが出すのでは? そう言いたげだと一目でわかるウィリアムの顔に、ルイは胸の内で小さくため息をついた。
もちろん、ルイとしては衣食住も含めアシェルに僅かたりとも請求するつもりはない。むしろルイの税収及び連隊長の給金だけで充分すぎるほどであるのだから、アシェルの身に纏うものから口にするもの、生活する空間の家具にいたるまですべてルイが用意したいほどだ。発作が起きたが故とはいえ、以前アシェルが自らの金で菓子を買いに行った時も、自分が用意したかったと独りになってから深くため息をついたほどである。
そんなルイの本心を赤裸々に語れば、ウィリアムが尚更にアシェルの金を諦めないだろうと理解しているので僅かにも覚らせることはないが、どうやらウィリアムはルイ以上に腹芸は得意ではないらしい。
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