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第264話
穏やかな寝息を零すアシェルの頬に指を滑らせ、その真白な髪を優しく撫でる。あの日よりも歳をとったその顔は幼さが抜けて美しい青年のそれになったが、それでも彼がもつ生来の優しさは変わらない。優しい優しい、兄のそれだ。
「アシェル、私はもうあの日の子供ではありません。大きく、強くなったでしょう? 今ならあなたの隣に立ち、あなたを支えることだってできる」
あの日のように、たった独りで背負い、戦う必要は無い。アシェルの心は変わらないが、時は経ったのだ。
「私はあなたに、ありあまるほどの幸せに包まれて欲しいのです」
幼いあなたが諦めたものもあっただろう。誰もが当たり前に与えられるはずのものを、捨てたことだってあったはずだ。人は誰しも時を巻き戻すことはできない。どれほど力をつけ、誰もが認める公爵になったとしても、アシェルに失われた子供時代を与えてあげることは不可能だ。それでも、今からでも間に合うものだってあるはず。
苦労した年月以上の日々を、幸せに過ごしてほしいのだ。
「私が護ります。必ず、護りますから……」
どうか、と瞼を閉じた時、ルイの髪が優しく撫でられる。ハッとして顔を上げれば、ルイが握っている手とは逆の手でアシェルが優しく頭を撫でていた。
「そんなに気を張りつめていたら、つかれてしまうぞ」
衣擦れの音を立てて寝返りをうった彼はトロンとした目をしている。どうやらまだ夢現のようだ。
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