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Prologue My favorite time 私の好きな時間
新太の声が好きだ。
低く響く声は、僕の胸の辺りを震えさせる。
紡がれる言葉は、僕がまるで宝物にでもなったかのように錯覚させる。
新太の声は、優しくて格好良い新太を一番表していると思う。
新太を見るのも好きだ。
合わせるといつも優しく細められる目、固く引き結んだ薄い唇は以前と変わらない。
ごつごつしてとても男らしく変化した額、鼻筋、頬、顎、喉仏を眺めていると、離れていた間に、成長したのだなあ、と感じる。
フラットで同棲を始めてから数週間、新太が纏う、以前にはなかった大人な雰囲気にまだ慣れなくて、どきどきさせられっぱなしだ。
新太に触れるのも、好きだ。
新太の身体を掌で撫でると、高校の時よりも胸、お腹、太もも、ふくらはぎ、二の腕、指先に至るまで、更に太く、逞しくなっているのが良く分かる。
ハンドファスティングだけでなく、恭一郎さんとの取り引き――どれ程の強さのものなのかは知らない――にも縛られている新太は、僕と離れていることで、心身に少なからず負担がかかったはずだ。それを、身体を鍛えることで乗り切った、らしい。
「あんまり苦痛を感じたことはないな。元々直に見合うように鍛えようと思ってたし、むしろすげー捗ったから、良かったんじゃないか?」
恐らく僕に心配をかけまいと、軽く言ってのける新太。
僕のために、苦難を乗り越えてきてくれた、逞しくて頼りがいがあって優しい、新太が大好きだ。
新太とエッチなことをするのが好きだ。だって、全身を使って愛を伝えてくれる。
僕は面と向かって好きだ、愛してる、なんて恥ずかしくて言えないから、そんな新太の行為に乗っかって、一生懸命、全身で愛を伝えている……つもりだ。伝わっているかな?
事後の時間も、大好きだ。
新太は、離れがたいとでもいうように、ゆっくり時間をかけて抜いていく。
僕を抱き寄せて目を合わせ、ふたりで余韻に浸る。凄く幸せだ。
でも実は最近、その事後の時間、ちょっと困った事態に陥っている。
いつもの穏やかさを装いながらも、僕の身体の中は、新太のものが抜かれた後、大変なことになるのだ。
新太が僕の中を離れていく感触は、僕の奥底に溜まった快感の源泉をも引き摺り出し、甘い甘い痺れを生じさせる。痺れはやがて、手先、足先まで到達し、僕の全身をぐるぐると駆け巡る。
それはやがて新太が吸った、舐めた、触って捏ねてつねって揉んだ場所に行き渡り、冷めきらない興奮と混ざり、絶え間なく繰り返す愉悦の波となって大きく膨らんでいく。
体を疼かせる波は、大きさを増しながら寄せては返し、寄せては返しを繰り返し、とうとう堪え切れないほどの巨大な波が来て、僕は絶頂を迎える。そうして、ぶるぶると震えてしまうのだ。
しかも、出さずに達する。
本当に、おかしな身体になったものだ。
新太はいつも、僕が感じるポイントを的確に刺激し、僕を幾度となく追い上げる。何度も責められ、僕の身体はものすごく敏感になっている。きっとそのせいだ。
声を漏らさぬよう唇を噛み締め、震えをごまかすために新太の身体に手足を絡める。
震えを寒さか何かと勘違いしたのか、新太は、僕を抱き締めさすってくれるようになった。
もし、寒いのではない、出さずに中でイってるだけだ、なんて正直に告白したら、ど淫乱だと思われそうで恥ずかしいし、身体をさすってもらえなくなるのも嫌なので、しばらくはこのまま黙っておこうと思う。
――――――――――――――――――――
直と過ごす時間が好きだ。
俺は、直の全てを愛している。だから、直が傍にいるだけで俺は幸せだ。
でも、具体的にどこがどう好きなのか、強いて上げるとするならば。
まずは見た目だ。少し大きめの瞳、厚い唇。ふわふわで色素薄めで短めの髪――願掛けで伸ばしていたという髪は、ナオの友人ロビンの忠告もあって切ってもらった――、まるで内側から発光しているかのように白く、きめ細やかな肌、その下にある、薄づきの筋肉。真っ直ぐ伸びる背筋は、美しさを際立たせる。
次に、声。特に、単調な音階を繰り返して詩を詠 っている時の優しい声、そして俺に喘がされている時の艶やかになる声が好きだ。想像するだけで堪らなくなる。
匂いも良い。甘い、蜂蜜の匂い。何故あんなに甘く、食べたくなるような匂いがするのか、ずっと謎だった。一緒に暮らし始めて数週間、直の日常生活をつぶさに見ていて、事ある毎に、ハーブティーを飲んでいることに気づいた。それが関係しているのかは、今後も要観察。
中身。非常に可愛い。たとえ俺に対して怒っていても、文句を言っていても、罵っていても蹴ってきても、ただひたすら可愛いとしか思えない。つか可愛い。
しかも、高校時代と比べて直は明らかにツンが減り、頻繁にデレてくるようになった。普段スラング無しの丁寧な英語を話す影響なのか、それとも元からなのか、日本語で話す時も口調が柔らかくなった。
もう、死ぬほど可愛い。
ちなみに俺の方はというと常時デレデレだ。むしろデレしか無い。だって、直は俺の女神だ。女神がいつも目の前にいるんだぞ? デレるなって方が難しい、それいますぐ俺の息子をもぎ取れと言われるのと同じくらいの難易度だからな!
勿論、直とのセックスも大好きだ。
最近は、事後の直を眺めるのが好きになった。
俺が直の中から離脱したあと、直はいつも腕の中からうっとりとした目で俺を見てくる。本当に可愛らしいし、愛おしくなる。
いつからだったろう。そのまったりと過ごしている最中、直は時折ぷるぷると、子犬みたいに震えるようになった。
震えている時は必ず、俺から目を逸らし厚い唇を噛み締める。セックスでの昂りは治まったはずなのに、再び少し、荒くなる鼻息と、紅く染まる耳と頬から、色気が駄々漏れる。
しばらく経つと、足と手を俺の身体に巻きつけてきて、ふうっと何度も大きく息を吐く。
最初は寒さを疑った。なので、なるべく抱き寄せて全身をさすり、温めてあげようとした。でも、何かが違う。気になって委員長に相談してみたら、やっぱ違うらしい。
「久々の連絡が、それなの!?」
呆れ声を出されつつ、推測ながら回答を得る。
恐らくなのだが、どうやら直は、セックスが終わってもなお繰り返す、オーガズムの中にいるらしい。
つまり、抜いた後も感じているということ。しかも、出さずにだ。
そんな風にさせているのは俺なのだと思うと、めちゃくちゃ興奮するし幸せ感じるし、何だろう、達成感というか支配欲満たされるというか、とにかく満足感が半端ない。
自分が最高にキモ野郎な気がするけど、本当にそういう風に感じるんだからしょうがない。
兎にも角にも可愛くて愛しくて堪らない、直を眺められるこの時間が好きだ。
もし直に指摘したら、久々の巨大ツンが発動して見せてもらえなくなるかもしれないから、黙っておこうと思う。
ふとした出来心だった。
ぷるぷるしながら唇を噛む直の顎を上向かせ、舌を唇の合わせにねじ込み、中に侵入する。
「……ふっ、んん」
口の中が、蕩けるように柔らかく、熱い。唾液もいつもよりどろりと粘度を増し、甘さも倍増している。美味い。
俺はキスを続けながら、直のお尻を掴み、自分の腰に引き寄せて。
中指で、お尻側から首筋まで、背骨の上をすぅーっと、なぞってみた。
「んぁっ!? は、ふっ、ぁああ!」
直はびくびくっ、と背中を反らす。
「……ん! うっ」
前から勢いよく、白濁の液体を漏らした。
「ちょっ!」
直は真っ赤になり、頬を膨らませ、俺の胸をぺちぺちと掌で叩いてきた。
「また出ちゃったじゃないか、拭いたのに! しかもすっごく飛んで……濡れちゃったし! バカ! バカあほマヌケ、どエロ!」
「ははははは! ごめん、ごめんって許してください」
「んもう!」
直も、あはははは、と笑い始めた。
おでことおでこをくっつけて笑い合う。
この時間が、最高に大好きだ。
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