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第16話 銀狐、熱に浮かされる 其の五
「効いてきましたね。このまま媚薬が抜けてくれるといいのですが……もし眠れるようなら、少し眠って下さい」
そう言って白霆 が、晧 の灰黒の髪を撫でる。
何もかも初めてのはずだ。それなのにこの撫でられる感覚すら懐かしいだなんて、本当に自分はどうかしている。
だが手のあまりの気持ち良さに、奇妙な安堵さに、晧の紫闇の瞳は次第に閉じていったのだ。
***
──どくり。
──どくり。
覚えのある嫌な脈動に、眠っていた晧は目を見開いた。心の蔵の音が先程よりも更に五月蝿くて、しかも早い。吐く息は荒くて、呼吸をするのが苦しかった。
ああ、またか。
そんなことを思う。
薬が効いたのはほんの一時だけだったのか。効力が切れてしまったのか。
「……っ、はぁ、あぁ……」
息を荒く吐けば、自然と出てきてしまう艶めいた声を、晧は止めることが出来ない。
再び訪れた激化状態は、先程よりも身体が熱かった。
自由に身体を動かすことが出来ないというのに、自然と天を向く若茎に合わせて、くい、くいと、腰だけが動く。下衣に先端の擦れる様が気持ち良くて、幾度も幾度も繰り返した。やがて、つつと先端から蜜が溢れてきて下衣がじわりと濡れて、くちゅりと淫靡な水音を立てるが、決定的な快楽を得られないことが苦しくて堪らない。
ああもっと。
もっと、欲しい。
触って、触って。
そういえば白霆 はどこにいったのだろう。
あの懐かしくも酷く安心する匂いに包まれながら、達することが出来たなら、どんなに気持ちいいだろう。
「はく……てい……っ」
喘ぎ声混じりに名前を呼ぶ。
気配のする方向に首を動かせば、白霆 は椅子に座り寝台の際に突っ伏して眠っていた。きっと自分の様子を見ながらも、寝てしまったのだろう。
「はぁ……っ、はく……て……」
熱欲の息が荒くて、声が掠れる。意味のない羅列の喘ぎ声ならば沢山吐きだせるというのに、どうして名前とはこうも発音し辛いのか。
彼の薄青色の髪がすぐ近くにある。身体が少しでも動けば、その髪に触れて白霆 を起こすことが出来るというのに。
(……ああ、だめだ)
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