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第24話 銀狐、謝る 其の三

「そんな、お礼だなんて」 「お前が助けてくれなければ、今頃俺は物好きな好事家の性奴隷として、仕込まれてる最中だった。恩を返したい。何かあれば言ってほしい」    (こう)の言葉に白霆(はくてい)が息を詰めた。  何やら言いたげな表情を浮かべたまま、じっと晧を見つめている。そして晧もまた直向きなまでに、真っ直ぐに白霆(はくてい)を見つめていた。  やがて。  根負けしたかのように白霆(はくてい)が小さく息をついたかと思うと、くすりと笑った。   「それでは貴方にお願いしたいことがあります」 「ああ」 「実は私の師匠、麒澄(きすみ)医生に南の隣国の街に薬を取りに行けと、お遣いを頼まれておりまして。この街で森越えと山越えの護衛を探そうと思っていたのです。銀狐の一族ならば愚者の森も南の山も庭のようなものでしょう? どうか私の護衛をして頂けませんか?」    護衛、と聞いて晧は途端に気まずい思いがした。  白霆(はくてい)は不安に思わないのだろうか。  自分はたった三人の魔妖狩りの連中に攫われそうになったというのに。  そのことを白霆(はくてい)に話せば、彼は問題ないとにこりと笑うのだ。   「私が見た時、二人が地に塗れていました。気配からしてあの者達は術者。彼らが敵の中にいる場合、真っ先に狙うのは鉄則です。あとは玉鎖の使い手ですが、媚薬さえ使われなければ貴方は決して負けることはなかったはず。状況を判断し、即座に動ける判断力と攻撃力は申し分ないと私は思っています。……私も嗜み程度でしたら戦うことは出来ますが、やはりひとりですと色々と心細いですし。どうかお願い致します」    そう言って白霆(はくてい)が再び嫋やかな所作で頭を下げようとするのを、晧は慌てて止める。   「だから頭を下げるなって。……わかった。俺も実は山を越えて南へ行こうと思ってたんだ。愚者の森は確かに庭みたいなものだが、山越えは数度しか経験がない。それでもよければ白霆(はくてい)を護衛する」 「はい、よろしくお願い致します。改めまして私は紅麗で薬屋『麒澄』にて、麒澄医生の弟子として働いております、薬師の白霆(はくてい)と申します。宜しければ貴方の名前を教えて頂いても?」   

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