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第27話 銀狐、口説かれる 其の二
「私は……どうやら貴方に一目惚れをしてしまったようです」
「──へ?」
「もちろん姿形だけではありません。貴方の勇ましい部分と愛らしい部分、そして真っ直ぐで潔い部分を見て、好きになってしまいました。旅の間、どうか貴方を口説かせて頂きたいのです。晧 」
「──は? ──……はぁぁぁぁぁ──!?」
白霆 の言葉がようやく理解出来た刹那、晧はあまりの感情の混乱に、場にそぐわない素っ頓狂な声を上げた。
「──いやいやだめだだめだ。第一、俺の服を着替えさせたんなら見ただろう? 俺の胸にある紋様を! あれが何なのか、魔妖と真竜を診る麒澄の弟子が知らんとは言わせないからな!」
「……勿論知っております。知っておりますが……貴方のこの手の甲が私の接吻 から逃げないのは……無意識ですか?」
「──っ!」
手の甲に当たるのは白霆 の薄い唇の柔らかさと、吐息の熱さだ。軽く食むようにして繰り返される接吻を自覚して、途端に晧の顔に朱が走る。
本来なら昨日今日に知り合ったばかりの男から手の甲に接吻 を受けるなど、無礼だと振り解いてもおかしくないはずだった。不快に思ってもおかしくないはずだった。
だが。
(……どうしてだ……?)
手の甲に感じる唇の柔らかさも、吐息の熱さも何故か離れ難くて仕方なかった。身体が心が一番奥で叫んでいるのだ。
ようやく会えたのに、と。
離れるのは嫌だ、と。
その理由がどうしても分からない。
分からないままに気付けば、ぐいっと手を引っ張られて、白霆 の腕の中にいた。
ふわりと香るのは、春の野原にある草花のような瑞々しい香り。ほんのりと甘さの感じるその香りが、懐かしくて仕方がない。ふと湧いてくるのは庇護欲と愛しいという記憶だ。
(俺はいつどこで……)
この香りを嗅いだのか全く覚えていないというのに、この懐古的な気持ちに捕らわれてしまっている。
「……駄目だ。だめなんだ、白霆 」
晧はその全てを振り切るようにして、白霆 の腕から抜け出した。
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