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第31話 銀狐、口説かれる 其の六

 思わず白霆(はくてい)に向かって身を乗り出すようにして握り拳を作り、ぶんぶんと尾を振りながら(こう)が言う。   「やっぱり爪で耕すのか」  「私にも分かりませんがそうですねぇ、どんな風に耕すのか、興味はありますね」    目を輝かせる晧の様子に、白霆(はくてい)が更にくすくすと笑った。   「……それでは晧、宿の者に伝えて参ります。朝餉までまだ時間はありますし、湯はいつでも使えるようなので、先に湯浴みに行かれますか? 一応昨夜は拭き清めはしましたが、さっぱりとなさりたいでしょう?」 「拭、き……!」    晧の尻尾がとても分かりやすく動きを止めた。  一体何を白霆(はくてい)に拭かれたのか、思わず想像してしまって顔を赤らめる。   (……汗だ、汗……!)    熱を出していたのだから、当然汗もかいてしまっただろう。拭き清めたのは汗だと晧は思い込みたかった。だが何となく覚えているのだ。お互いの白濁が二本の竿を伝い流れていく(さま)を。そして白濁ではない何かを、撒き散らしてしまったことを。  よく見れば白霆(はくてい)の着ている衣着が昨日のものとは少し違っていることに、晧はようやく気付く。  それほど汚れてしまったのだと、汚してしまったのだという事実を目の前に突き付けられたようで、恥ずかしくて堪らない気持ちになった。   「湯殿はすぐ前に見えるあの離れです。中に眠衣(ねむりぎぬ)になりますが、着替えもあると聞きました。貴方の着ていた衣着は宿にお願いして、乾燥場に出しています。乾き次第持ってきて下さるそうですよ」    晧の心の嵐など知る由もない白霆(はくてい)が、淡々と説明する。  そんな彼にに対して晧は、どこか上の空で応えを返した。気が付けば部屋の入口にいたはずの白霆(はくてい)がすぐ目の前にいて、晧は思わず身体をびくりと震わせる。  そして何を思ったのか。  白霆(はくてい)が晧の心窩の辺りを、人差し指で軽く押した。   「……前、ちゃんと閉じて湯殿に向かって下さいね。一応ここも離れになりますので宿の者は滅多に来ませんが……見えそうで見えない領域に、もし私以外にも煽られる方がいらっしゃれば……」    ──私はすぐに貴方をとって食べてしまうかもしれません。

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