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第38話 銀狐、白蛇に会う 其のニ

「森抜けも以前に比べれば随分と楽になったしな。これで森に街道が通れば言うことはないんだがなぁ」 「流石にこの森を工事しながら進むとなると、色々と割に合わないでしょうからね。それに街道が出来ない方が都合のいい方というのが、一定数いらっしゃいますし」    街道が出来ないことで商売が成り立ち、それで生活している様々な者がいる。実は銀狐の里も、勢力を二分する鬼族の里も例外ではない。   「──ああ……確かにな。俺のところも……」    不意に(こう)は話を中断し、立ち止まった。   「……どうしました?」 「──しっ! 静かに」    ぴんと立てた銀灰黒の耳が、何かしらの音を捉えてせわしく動く。さんさんさわさわと葉擦れの音がした。森の中では当たり前にある音だ。だが枝の折れるような乾いた音も聞こえて、晧は敏速に音のする方向を見上げる。  思わず手を伸ばしてしまったのは、落ちてくるものに対する条件反射か。  しっかりと抱き止めたそれは、子供の腕ほどの太さを持った白蛇だった。   「……っと! 大丈夫かお前」 「きゅう!」    つぶらな紫闇の瞳を綺羅綺羅とさせながら、頷くように鎌首をこくりこくりと動かして白蛇は鳴く。   「お前、白蛇神(しらへびがみ)のとこの眷族だろう? いくらお前でもあの高さから落ちたら怪我するぞ」    晧の言葉に白蛇は再び、何か言いたげにきゅうと鳴く。 『愚者の森』の入口周辺は、大きな蛇身を持つ白蛇神と呼ばれる白い蛇の縄張りだ。()の大蛇は人や魔妖を警戒し滅多にその姿を見せることはない。その為、縄張りが侵されていないか見て回るのは、眷族の白蛇の役目だ。   「……え? 懐かしい(・・・・)顔を見たから(・・・・・・)挨拶に来たって? 何言ってるんだ? 俺は数日前にもここを通ったぞ」 「きゅう?」 「……え? 何だって? まあいいや。白霆(はくてい)、こいつ白蛇神の眷族の……ってあれ?」    横にいたはずの白霆(はくてい)の姿がない。気配の感じるがままに後ろを振り向けば、自分から数人分の距離をあけて白霆(はくてい)が立っていた。  どこか強張った蒼白な顔をして。

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