37 / 107
第38話 銀狐、白蛇に会う 其のニ
「森抜けも以前に比べれば随分と楽になったしな。これで森に街道が通れば言うことはないんだがなぁ」
「流石にこの森を工事しながら進むとなると、色々と割に合わないでしょうからね。それに街道が出来ない方が都合のいい方というのが、一定数いらっしゃいますし」
街道が出来ないことで商売が成り立ち、それで生活している様々な者がいる。実は銀狐の里も、勢力を二分する鬼族の里も例外ではない。
「──ああ……確かにな。俺のところも……」
不意に晧 は話を中断し、立ち止まった。
「……どうしました?」
「──しっ! 静かに」
ぴんと立てた銀灰黒の耳が、何かしらの音を捉えてせわしく動く。さんさんさわさわと葉擦れの音がした。森の中では当たり前にある音だ。だが枝の折れるような乾いた音も聞こえて、晧は敏速に音のする方向を見上げる。
思わず手を伸ばしてしまったのは、落ちてくるものに対する条件反射か。
しっかりと抱き止めたそれは、子供の腕ほどの太さを持った白蛇だった。
「……っと! 大丈夫かお前」
「きゅう!」
つぶらな紫闇の瞳を綺羅綺羅とさせながら、頷くように鎌首をこくりこくりと動かして白蛇は鳴く。
「お前、白蛇神 のとこの眷族だろう? いくらお前でもあの高さから落ちたら怪我するぞ」
晧の言葉に白蛇は再び、何か言いたげにきゅうと鳴く。
『愚者の森』の入口周辺は、大きな蛇身を持つ白蛇神と呼ばれる白い蛇の縄張りだ。彼 の大蛇は人や魔妖を警戒し滅多にその姿を見せることはない。その為、縄張りが侵されていないか見て回るのは、眷族の白蛇の役目だ。
「……え? 懐かしい 顔を見たから 挨拶に来たって? 何言ってるんだ? 俺は数日前にもここを通ったぞ」
「きゅう?」
「……え? 何だって? まあいいや。白霆 、こいつ白蛇神の眷族の……ってあれ?」
横にいたはずの白霆 の姿がない。気配の感じるがままに後ろを振り向けば、自分から数人分の距離をあけて白霆 が立っていた。
どこか強張った蒼白な顔をして。
ともだちにシェアしよう!