38 / 107
第39話 銀狐、白蛇に会う 其の三
「白霆 ……?」
呼び掛けながら晧 が一歩近付くと、白霆 は二歩離れる。もう一歩近付くと更に離れる。
そんな白霆 の様子に晧はようやく思い当たる。
「──あ、もしかして白蛇苦手だったか?」
「得意な人の方が少ないのでは?」
その口調はいたって冷静であり平坦だ。だがその淡々さが拒絶を物語っている。
晧は白蛇を見た。白蛇も白霆をじっと見ていたが、晧の視線を感じたのか、きゅうと鳴いて鎌首を晧に向ける。
「挨拶ありがとうな。でも俺の連れが苦手みたいだからさ、この近辺を通る間だけ、眷族の皆に姿を見せないようにお願い出来るか?」
任せろとばかりに、きゅきゅうと鳴いた白蛇が晧から離れた。このまま森に帰るのだろうと思っていた白蛇は、何を思ったのかこれ見よがしとばかりに、白霆の立っているすぐ近くに進んでいく。
「……っ」
ちょっとした悪戯だったのだろう。
尾を軽く白霆 の足に当てて、白蛇は森の中に消えていった。
残された彼は……。
「──あ……大丈夫か? 白霆 」
驚いて泥濘に尻餅を付いてしまっていた。
晧がくすりと笑って差し伸べる手を、どこか釈然としないむすっとした表情を浮かべながら、白霆 が掴む。
立ち上がる彼の子供っぽい様子に、晧は自分よりも体格のいい彼のことを何故か可愛らしいと思った。そしてふと思い出してしまうのだ。
昔、白蛇が怖くて自分の足を掴んで怯えていた白竜 のことを。
白蛇は確か白竜 のことを気に入っていた。友達になりたいのに怯える白竜 が嫌だったのだろう。蛇身でぐるぐる巻きにしていたのを覚えている。助けてと、きゅうきゅう鳴く白竜 を救助し、白蛇を諭したのは一度や二度ではない。
その時の白竜の雰囲気と、今の白霆 の雰囲気が似ている気がした。
だが本当に気がしただけだと晧は思い直す。
人と竜とでは、気配の根本のようなものの感じ方が全く違うのだ。
白霆 は確かに『人』の気配がする。
こんなに図体の良い男を見て、あの時の小さな竜を思い出す自分がとても可笑しく感じられて、晧は再びくすりと笑った。
「泥濘に妖蛭がいなくて良かったな」
「全くです。こんなところ齧られてしまったら、薬も塗りにくいですし。晧に手伝って頂かないといけないですね」
「……っ対に塗らねぇ……!」
「あ、もし晧が齧られてしまったら、ちゃんと塗って差し上げますからね。すぐに治るようにとても丁寧に塗り込んで差し上げます」
「──……っっ対に! 塗らさねぇし、そもそも怪我しねぇ!」
辟易とした表情で言う晧に対し、先程の鬱々とした雰囲気をどこへいったのか。それとも笑われたことに対する腹いせか。
白霆 がにっこりと笑ってそんなことを言ったのだ。
ともだちにシェアしよう!