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第56話 銀狐、思い知る 其のニ

 白霆(はくてい)霽月(さいげつ)に付き添っている者達や、火の番をしている村の者達に確認をする。  確かに人の足で到着を待つよりは、銀狐の脚で駆けて迎えに行って貰ったほうが到着は早いだろう。『御取り上げ様』もまた人の魔妖の混血であり、魔妖の本性を見たぐらいでは怯えるような人ではないという。  それなら大丈夫だと思った(こう)は、霽月(さいげつ)の家を出てすぐに、瞬きひとつでその姿を転変させた。  人ひとりを余裕で背に乗せることの出来る、大きな銀狐の姿に。  転変したての銀狐の毛並みが、妖力の余波で仄かに発光し、靡いていた。ふさりと振る尾が、光の軌跡を描く。  そのあまりの美しさに、見送りに来た数人の村人が感嘆の息を洩らした。吉兆だと拝み始める人もいる。  そんな中でただひとり、白霆がどこかぼぉうとした表情で、銀狐に転変した晧を見つめていた。   『──白霆(はくてい)?』    一体どうしたのだろう。  そう思って名前を呼べば、彼はまるで夢から覚めたかのように、はっとした表情で晧を見上げている。   「……『御取り上げ様』いつもこの道から来られるそうなので、ここを道なりに行けば会えると思います」 『ここを道なりに、だな。分かった! ちゃんと連れてくるから!』 「どうぞ……お気を付けて、晧」           ***    晧が戻ったのはそれから半刻も経たない間だった。  言われた道の途中で出会ったのは、どこか威厳のある知命を優に超えた女性だ。初めは珍しげに銀狐を見ていた彼女は、自分が迎えにきたことを伝えると、それは大喜びで背中に乗ってくれた。  村に着いてからは、銀狐の背に乗ったことをそれは興奮気味で村人達に話ながら、霽月の家に入っていく。  再び瞬きひとつで人形に戻った晧は、出迎えてくれた白霆(はくてい)に戻ったと挨拶をした。   「お疲れ様でした。少し休んでいて下さい、晧。私も、もしかしたら不要かもしれませんが、助手として入ります」    それでは、と白霆(はくてい)が晧に笑いかけてから『御取り上げ様』の後に続くように家の中に入っていく。   「……」    銀狐は無言のまま、その背中を見送った。  きっと気の所為ではない。  どこか余所余所しく、そしてどこか機嫌の少し下降したような白霆(はくてい)の様子に、どうしたのだろうかと思う。  これから迎える大仕事に、きっと気が立っていたのだろうと思い直して、晧はこれからたくさん必要な湯の用意の手伝いに、先程の竈の所へ行ったのだ。                

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