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第58話 銀狐、思い知る 其の四

「まぁいいさ。話は聞いたよ。『御取り上げ様』を迎えに行ってくれたんだってねぇ。ありがとうね、(こう)」 「たいしたことない。無事、産まれてよかった。おめでとう霽月(さいげつ)」  「ありがとうね。もし良かったら抱いてやってくれるかい?」 「ああ、喜んで」    まだ座っていない首に気を付けながら、晧はおくるみに包まれた赤子を受け取り、そっと抱いた。  赤子は産まれてまだ数刻しか経っていないというのに、しっかりとした重みがある。何よりとても温かい。自分で呼吸をして、気持ち良さそうに眠っている様子を見ていると、可愛いと思うのと同時に、何やら込み上げてくるものがある。   (ああ、やはり……俺は)  あの男の……。   「おや? 慣れてるね? もうちょっと慌てるかと思ったのに」 「里には赤ん坊が生まれると、皆に抱いて貰うしきたりがあるんだ。でも久々だから……実はかなり緊張している」 「そうかい? 絶対私より手慣れてるよ。しかしいいねぇ。産むあんたは手慣れてて、しかも旦那は御取り上げの助手も出来る薬師。言うことないじゃないか」    うんうんと力強く頷く霽月を、晧はやれやれといった感じで首を横に振った。   「だから霽月。俺と白霆はそんな関係じゃない」  「だが好き合っているんだろう?」  「……」    肯定も否定も出来ないまま、晧はただ赤子を見つめる。すやすやと眠る赤子は、時々何やらむずかるような仕草を見せていたと思いきや、再び大人しく眠った。それもまた愛らしくて堪らない。  感情は認めたがらないが、本能はずっとずっと訴え続けている。赤子を抱いて、その重みや温かさや特有のいい匂いを感じて、その想いは更に強くなる。   「私が晧を呼んだのは、この子を見せたかったからというのもあるけど、話の続きをする為さ」 「続き……?」  「縁の話さ」 「……っ」    刹那の内に息を詰まらせた。だが腹を括り小さく息をつくと、晧は霽月の腕に赤子を返す。  霽月は抱っこして貰って良かったねぇと、赤子に話しかけながら立ち上がると、赤子用の小さな寝台にそっと寝かせて上掛けを掛けた。  暫くして自分の寝台に戻った彼女は、際に座ると晧を見据える。彼女にしか()えないものを、しっかりと視る為に。   「先祖返りの『力』の所為か、視える縁は『強いもの』に限られるんだけどねぇ。それでもこの縁の糸は、今まで視たものの中のどれよりも強いものだ。それに特別だね」 「とく……べつ?」 「ああ。本来ならこの縁の糸は、お互いを繋ぐだけで終わるんだけどね。この糸には先があって……天に繋がってる」             

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