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第66話 銀狐、医生に会う 其の四
え……、と晧 が声にならない声で呟いた。
麒澄 の言葉が聞こえているのに、頭が意味を全く理解してくれない。
では白霆 は何故。
「お前があいつに言った んだろう? 南に行くと」
「──!」
晧は途端に頭の中が真っ白になった気がした。
自分が南に行くと知っているのは、紫君と白霆、たった二人だ。
(……それは一体)
どういう、こと。
「俺がこの馬鹿弟子から聞いたのは、どうしても追い掛けたい人がいるから長期間の休みが欲しいことと、持続薬を作れ、だったな」
困惑する晧を無視する形で、麒澄は話をしながら白霆を触診する。胸の鬱血痕を見て目を見張り、顔をしかめて大きく息をついた。
「持続、薬……」
「そうだ。術を効果を保ち続ける持続薬だ。だが、ただでさえ定められたものを覆すような過度な術を二つ掛け続けた上に、血に酔っている。この高熱はその全ての副作用のようなものだ。他に変わった様子はなかったか?」
「……酷く苦しそうで、その鬱血痕の辺りを拳で打ち付けて……ぐっと掴んで……」
追い掛けたい人。
持続薬。
術を掛け続けている。
そんな言葉が晧の頭の中を占めていたが、深く考える余裕もなかった。ただ麒澄に聞かれたことに答える。
「──ああ、成程な。きっとあるひとつの術の効果が切れ始めたから、それで誤魔化したんだろう。見られるわけにはいかないものなぁ。そうやって理を曲げて隠した結果、負担が高熱と心の臓に来たか。俺は忠告したぞ、馬鹿弟子。術を二重掛けした挙げ句に持続薬まで飲んだら、徐々に身が保たなくなるってな。しかも……酔血か。見事なとどめだったな」
麒澄が触診が終わせると、持ってきた布鞄の中から薄青色の小瓶と緑色の小瓶を一本ずつ取り出した。
「全ての原因は、いま掛けられている術と酔血だ。これらを全て払わないと熱も下がらなければ、呼吸も安定しない上に心の臓を痛め続けるだろう。薄青色が術払い、緑色が酔血払いだ。まずは薄青色を飲ませろ。一番の負担となっている術を払えば、症状がかなり改善されるはずだ」
晧はどこかぼぉうとしながらも、どこか他人事のように二本の小瓶を受け取る。中身の液体がぴちゃりと音を立てて揺れた。
「飲ま……せる……?」
「ああ。匙でも構わんし、口移しでも構わん。少しずつ飲ませろ」
「く……」
思わず赤らめてしまった顔を晧は、振り切るように頭を横に振った。いまここで居たたまれない気持ちに陥っている場合ではないのだ。
(それに……!)
晧は大きく息をついてから、彼に聞く。
腹を括るために。
「……麒澄。白霆の身体がここまで負担になっている、二つの術の正体は何だ?」
「──気付いてないわけじゃないんだろう? それとも答え合わせのつもりか? まあいい」
晧の言葉に麒澄が面白そうに喉奥でくつりと笑う。
「人の姿に変える術と、胸にある定めの紋様を消す術。この二つを馬鹿弟子はあいつに頼んで掛けて貰ったんだ」
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