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第67話 銀狐、医生に会う 其の五

「──っ!」    (こう)は今度こそ言葉を失った。  同時に疑問に思っていたこと、もしやと思っていたことがひとつの線に繋がった気がした。  こんな高度な術を扱える者など、たったひとりしかいない。しかもその人物は晧が南に行くことを知っていたのだ。   (……俺を追い掛ける為に、危ないと分かっていて姿を変えたのか)    しかも自分と対の紋様を消して、気配まで変えて。   「……なんで……」    晧が茫然と白霆(はくてい)を見ていると、麒澄(きすみ)が大きくため息をつくのが分かった。そして寝台近くの卓子(つくえ)に、鳥の形に折られた紙を幾つか置く。   「薬を飲ませて払ってしまえば、本来馬鹿弟子が持っている浄化作用が働いて、体調が一気に回復するだろうよ。だがもしもの為に『折り式』を置いて行く。何かあったら連絡しろ」    そう言って麒澄が部屋の引き戸を開けようとした。   「……え……、帰る、のか」 「当たり前だ。無粋な真似はしたくないからな」    晧を見ることもなく、麒澄が引き戸を開けて部屋を出ようとする。  だが何かを思い出したかのように、晧の方を振り返った。   「ひとつ、土産話をしてやる」    いきなり何を言い出すのか。  晧が怪訝そうに麒澄を見つめる。  だが彼は愉快だと言わんばかりに、質の悪い笑みを浮かべるのだ。   「俺のところに昔、ある餓鬼が突然弟子にして欲しいってやって来た。何でも自分の大事な人が、自分の所為で熱を出しているのに、何も出来なかったのが悔しかったんだらしい。俺の作った薬の飲んで、熱があっという間に下がったのを見て、医生と薬の知識を得たいと思った。何かあった時に今度こそすぐに助けたいと思ったと言っていたな。……ったくその『大事な人』って奴は愛されてやがる。そう思わねぇか? なぁ、晧」                 

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