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第96話 銀狐、目合う 其の十八 ※

「……こう……こう……!」    (こう)の耳元で、すんと香りを嗅いでいた白霆(はくてい)が、まるで香りに酔ったかのように晧の名前を繰り返し呼んだ。   「あ……あ……はっ……」    雄蕊(ゆうずい)は胎内で放った熱を、より奥へと刷り込むような動きをする。ぐちゅりと一際鄙陋(ひろう)で大きな水音が聞こえてきて、胎内の圧迫感が増した。雄蕊が更にぐっと奥に入り込んだ証だ。(いざらい)に白霆の下生えの感触がする。晧はようやく、白霆の全てをこの身に収めたのだと分かった。   「晧……晧、私が……怖くありませんか?」    熱に浮かされているようでどこか不安げな白霆の声に、晧は肩越しに彼の方へ振り返る。  彼の精悍かつ巧緻な顔がすぐ近くにあった。ぎらついた欲の焔に灼かれた灰銀の瞳は相変わらずだ。だが先程の声の様子の通り、その表情もまた不安げだった。   (ああもうお前は……)    こんなに大きくて凶悪なもので腹の奥の奥まで埋めて、こんなにも熱い白濁で灼いておいて、しかも自分を『白霆』という真竜(そんざい)に縛り付けたというのに、何故そんな顔をしているのか。   晧は腹奥のぐうるりと回るかのような悦楽に耐えながら、白霆の灰銀の長い髪を軽く引っ張った。  彼を呼ぶかのように、もっと近くに来て欲しいと訴えるかのように。  そうして顔を寄せて来た白霆の唇を掠め取る。   「……こわく、ねぇよ……白竜(ちび)っ」  「──っ! ありがとうございます。ですがどうか……これから私が行うことを許して下さい。怖がらないで」    晧が応えを返しても、白霆の表情は変わらなかった。   「……どう……した……? 何が、したい……?」    どうにかしてやりたい。  やけに庇護欲のようなものが湧き出て晧は、少し身体を捻らせてもう一度、白霆の唇に接吻(くちづけ)を落とした。   「貴方からの接吻、嬉しいです。晧」    お返しとばかりに今度は白霆が、晧の唇に触れるだけの接吻を何度も落とす。   「……貴方が私のものになった証でもある、この甘くて芳しい香りを吸い込むと、真竜の本能が刺激されて堪らないのです。貴方を本性で抱きたい。どうか……許して下さい」

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