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第98話 銀狐、目合う 其の二十 ※

   ──その美しさに、息を呑む。    全身を淡い光に包まれた竜体は、ひとつの穢れのない清らかで至純な白。ひとつひとつの鱗が畝るようにほのかに光り輝いて、まるで唯一無二の宝玉の様だった。   (ああ……こんなに)     こんなに綺麗な竜が自分のものなのか。  自分を想ってこの旅路を追い掛けてきたのか。     白竜はかつて見た幼竜とは、比べ物にならないほど伸びやかに成長していた。まさに成竜となった姿を見て、酷く感慨深い感情が(こう)の胸の中を占める。  誇らしさと寂しさが同居するその感情のままに晧は、白竜の口吻(こうふん)にそっと触れた。   「……綺麗だ……白霆(はくてい)。──もう、白竜(ちび)とは……呼べねぇな」 『──っ!』    白霆の息を詰める様子が脳内に伝わる。   『私は……早く成竜になりたかった。貴方に守られるだけの存在ではなくて、貴方を守る存在になりたかった。──ですが……』    きゅうと、か細く鳴く白竜の声に、聞き覚えがあった。彼が幼竜で思念が上手く使えなかった頃、自分に何かを訴えたい時によくこんな声を出していのだ。   「……ん?」    その頃のことを思い出して、晧は白竜の口吻を優しく撫でながら促すように聞く。  気持ち良いのだと言わんばかりに白竜がぐる、と唸ったあと、脳内で再び声が響いてきた。   『ですが……成竜になっても、どんなに人形(ひとがた)の身体が大きくなっても……私は永遠に貴方の『白竜(ちび)』です──晧』    今度は晧が息を詰める。   「──っ、白竜(ちび)……っ! はくて……い!」 『……はい』 「俺の……白竜(ちび)……っ!」 『……はい。私は貴方の為に生まれてきた、貴方だけの番です』 「……っ!」        白竜の翠水の眼に真っ直ぐ見つめられて、脳内に響くあまりにも真摯な言葉に、晧は昂る心のまま口吻の先端に口付けた。  やがて白竜の長い舌が口吻から現れて、透明な蜜を滴らせながら晧の唇を這う。その甘さをすでに知ってしまった晧は、自らも求めて舌を差し出した。竜舌の細くなった先端が晧の舌を優しく絡め取る。   「ふっ……んんっ、ん……」    一頻り絡め合ってお互いの舌を舐め合った後、竜舌はゆっくりと晧の口腔内に入り込んだ。先端に上顎の襞を擽られて、くぐもった艶声が洩れる。  

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