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番外編 銀狐、温泉に入る 其の六 ※
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ようやく湯に浸かった二人だったが、晧 は白霆の方を見ることが出来なかった。白霆 と少し距離を取って、ただ景色を眺めている。
自分自身が信じられなかったのだ。
昨夜と今朝、そして今。
温泉で彼を見た、ただそれだけでこんなにも『白霆が欲しい』と思うなど、思いもしなかった。
自分から白霆を求めるような視線を向けて『竜の聲 』でいいようにされて、前戯もなしにいきなり繋がるような目合 いをされたというのに。晧の心と身体は充足感に満ちていた。
それが信じられない。
自分の中にこんなにも『力の強い者に従う隷属本能』が強いなど、思ってもみなかった。
「……晧、申し訳ございません。怒って……いらっしゃいますよね」
自分の機嫌を伺う白霆の言葉に、申し訳ない気分になる。すぐに安心させてやりたいと思うのに、戸惑いと葛藤がまだ心の中を占めていた。
だが白霆には素直になっていいのかもしれないと、そう思い始める。これから一生を共にする定められた番なのだから。
「……怒ってるわけじゃねぇよ。ただ……」
「──はい」
「ずっとお前を欲しいと思ってる俺がいて……お前の『竜の聲』も悪くなかったって思ってる自分が、信じられなかっただけだ」
「晧……」
気付けば後ろから抱き竦められて、狐耳に落とされる接吻 に晧は身を捩らせた。
「──っ、離してほしい、白竜 。じゃないとまた、欲しくなる」
「欲しがって下さい。私も貴方が欲しいです。まだまだ足りない。私達は結ばれたばかりなので当然です。『竜の蜜月』という言葉をご存知でしょう?」
「あ……これ、が……?」
文献で読んだことがあった。
自分の御手付 きを得た真竜が、御手付きを愛でる為に巣籠りをする期間があると。
「はい。実は先程、宿の者にしばらくの間、離れに滞在したいとお願いしてきました。あと全ての食事を私が離れに運ぶことも了承して頂きました」
「……っあ……っ! な、んで……?」
胸の漿果に触れられて、晧の身体が跳ねる。
そういえば今朝、遅い朝餉になってしまったが、白霆が運んできたことを思い出した。晧は朝餉が遅れてしまったからだと思っていたのだ。
くすりと白霆が耳元で笑う。
「──だって……こんなに私のことを欲しがっている貴方を、誰にも見せたくないんです。いまは……私のことだけを考えて下さい。欲しがって、晧」
「あ……白竜 ……っ!」
再び後蕾に宛がわれる雄蕊 に、尾骶がつんと痛んで快楽が背筋を駆け上がっていく。
湯と共に媚肉の隧道を掻き分けて挿入 ってくる、熱茎の愛しさに晧は酔い痴れたのだ。
その後、離れの宿の滞在期間中、晧と白霆は食事と睡眠以外はほぼその後、離れの宿の滞在期間中、晧と白霆は食事と睡眠以外はほぼ目合 い続けた。
時折会話もするが常にお互いに触れ合い、その温もりを確かめ合った。
だがこれが竜の蜜月の始まりに過ぎないことを。
晧はまだ知らない。
【番外編 銀狐、温泉に入る 完】
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