110 / 117
番外編 銀狐、本当の大きさを知る 其の三
紫君がきょとんとした表情で、晧を見る。
「違うよ。あれはまだ小さい方……っていうか、普通の私室で過ごす用って感じ。本来はね、これくらい……あ、もう少し大きいかな? この辺りに口がくるよ」
そう言いながら紫君は腕を上に伸ばしながら、ぴょこんと跳ねて大きさを示す。
その高さからすると、明らかに今の蒼竜よりも大きいことが分かる。
(……え、でも、白霆は……)
初めて見た白霆の成竜となった姿は、いま畑を耕している蒼竜ぐらいだった。
「白竜も……同じぐらい、なのか……?」
「うん、多分。前に彼が、上位の竜以外はみんな大体同じ大きさぐらいだって言ってたから……って、もしかして晧……?」
「──俺、見たことない。白竜の本当の大きさ」
そう紫君に言った言葉に対して、自身で傷付いている自分がいた。
たとえ生まれた時から定められている許婚竜とはいえ、心が通い身も繋げたのはつい最近のことだ。だから知らないことがあって当然だというのに、衝撃を受けている自分がいる。
ちゃんと見たいと白霆に言えば、彼なら本来の大きさの本性を見せてくれるはずだが、そういうことではない。
あれが本当の大きさではなかったのだと、紫君によって明らかとなったことが、とても寂しいのだ。
「……そういえば紫君は、いつ蒼竜の本当の大きさを知ったんだ?」
「えっ!?」
何気なく晧はそう紫君に聞いた。
いつもどこか達観しているような印象のある紫君が、やけに慌てたような声を上げる。
「あ……!」
顔を赤らめて視線を逸らす紫君に、晧は思わず声を上げた。紫君の様子に須臾の内に察してしまって、晧もまた顔に朱を走らせる。
お互いに気まずい空気が流れる中、こほんと咳払いをしたのは紫君だ。
「──あ……うん、その……もしかしたらさ。白霆は晧のこと、怖がらせたくなかったんだと思うよ。ほら晧って白霆から逃げた原因が原因でしょ? 竜形って本来の大きさに戻ったら、どうしても本能に引き摺られるって言ってたし。それにある程度、身体の大きさに比例すると思うし」
「比例?」
何のことだと言わんばかりに晧は首を傾げる。
小さくため息をついた紫君が晧に近付くと、その大きな狐耳に口元を寄せた。
「……アレの大きさ」
紫君があけらかんと、そう耳元で囁いた時だった。
ひぇぇ、という晧の悲鳴を打ち消してしまうほどの大きな音が畑からした。身を竦めながら晧が視線を移せば、綺麗に耕されている畑のほんの一部が、大きく抉れてしまっているではないか。
「……聞こえちゃったかな? さすがにこの話はここまで。二人きりの時にまた紅麗で、お茶でも飲みながら話そうか。晧の話も聞きたいし」
くすくすと笑いながらとんでもないことを言う紫君に、晧はただ唖然としながらも無言でこくりと頷いたのだ。
ともだちにシェアしよう!

