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 タカハシがピストンを早めた。 「ん。――嫌…待って。上からにして。あんたの顔が見たい」  タカハシが動きを止める。 「前からがいいの?」 「うん。一度、抜いて」  どうせならぼくを軽蔑している顔が見たい。後ろからそんな顔をされているのは嫌だ。  仰向けになると、タカハシがぼくの体を折りたたむようにして腿を持ちあげる。そして再び、ぐっと挿入した。  一つ一つの動作に背中がきしみ、背骨が悲鳴をあげる。ピストンが始まると背中が擦れて、骨髄まで()れる痛みが続いた。  声が漏れないように、血が滲むほど唇を噛んだ。でも、いま苦しいのは背中の痛みのせいでもペニスに貫かれる痛みのせいでもない。  ぼくは睨むようにタカハシを見あげた。なんの感情も読み取れない、冷静にぼくを見おろす目を見つめ返した。 「ぼくを軽蔑する?」  ピストンに体を責めたてられながら、挑発的に訊ねた。タカハシが軽く瞬きをする。 「どうして、そんなことを訊くんだ?」 「ぼくがあんたを騙しているからだよ」  タカハシは返事をしなかった。なんの痛痒も感じていないようなその無表情が、ぼくの苛立ちに火をつけた。  なんでこの人は肝心なことを言ってくれないのだろう。  どうして大事な感情を表に出してくれないのだろう。  タカハシのペニスの先が狙ったようにぼくの前立腺を刺激し始める。すぐに快感の焔がゆらゆらと立ちのぼり、ぼくのペニスを押しあげた。 「――ハァ…、ん――ハ…ア…」  顎が上がり、押し出されるようにして快楽の甘い呻きが漏れる。  官能の熱によって勢いづいた蠢動が重く甘く腰に纏わりつき、それだけでぼくを絶頂へと導こうとする。 (誤魔化しだ)  誰かが脳裏で囁く。  そう、かもしれない。  でも、いったいなにが?  いったい、誰がどうぼくを誤魔化しているというの?  タカハシ? それとも、ぼく自身が?   ――ほかでもないこのぼく自身が、ぼくの心をずっと騙し、誤魔化し続けているというのだろうか?  タカハシは前立腺への刺激でぼくを射精させようとしている。計算づくでポイントを責めたててくる。  ペニスで擦られれば擦られるほど、めくるめく蠢動に、ぼくの体は小刻みに痙攣した。  でも違う。なにかが間違っていた。  ぼくが欲しいのはこんなのじゃなかった。ぼくに、「こんなの」はいらない。  ぼくは首を振った。違う、違う、違う、と…。  だってぼくの奥は、しくしくとすすり泣いているのだもの。  悟さんに毎日打ちすえられている烙印が、嫌になるほど消えなくて、消せなくて――いつも、いつまでたっても、悟さんのものがそこに「在る」みたいな感覚が抜けなくて…それが堪らなくて――!  だから違うんだよ。  ぼくが欲しいのは、こんなのじゃない。  こんなんじゃ、ないんだよ――! 「あ…! 違う…違う…! 浅い――! タカハシ、浅すぎるよ!」  首を振りながらぼくは絶叫した。タカハシがぎょっとした顔をする。 「こんなの、違うんだよ! …浅い! もっと入って――! こんなのはいやだ! ぼくはいらない、いらないから!」 「佳樹?」  タカハシが思い余ったようにぼくの名を呼ぶ。  ぼくは、ガッと上体を起こして彼の首に抱きついた。溺れる人間がなにかにしがみつくみたいに、強く腕をまわし、締めつけた。彼は座る形になり、ぼくはそれに(またが)り、体重がかかってペニスが最奥へと鋭く差し込んだ。  ぼくは気が違ったようにぶんぶんと首を振り続けた。自分の体が、呪わしくて、呪わしくて、たまらなかった。 「イヤだ…! イヤ――! そんな、気持ちよくなんか、しないでよ! 浅いのは嫌だ! ねえ、お願い、もっと中に入って! もっと深くに入ってよ、タカハシ!」  絶叫し、歯軋りしながら夢中で尻をタカハシにこすりつけた。ペニスが暴れながら最奥に突き刺さるのを感じながらも、それでも物足りなかった。  脚を使い、ばねのようにして自分で激しく上下にピストンした。すべてがやりきれなくて、やりきれなくて、しかたなかった。 「こうやって! こうやって! こうやって! ぼくを責めてよ! もっと激しく入って! あの人より、深く入って!」  我を忘れ、狂わんばかりだった。  タカハシのものはいっそう硬くそそり立ち、ぼくの内壁は自らの乱暴な上下の動きによって(ただ)れた火傷のように熱を帯びた。ぼくは猛々しいけもの、そのものだった。 「こうやって、こうやって、こうやって! もっと奥に、届けてよ! あの人よりも強く入ってきてよ! あの人より、鋭く入って! あの人のを、塗り変えてしまって! ぼくの中から、あの人の存在を、…あの人の記憶を、ぜんぶ消してしまって! あの人のことを、忘れさせてよ! あ――忘れたい、忘れたいんだよお! …もっと、…もっと…もっと…、あ――タカハシ、もっと…!」  ぼくはわななき、悶え、泣きながらタカハシの首にすがりついた。 「突いて、突いて、突いて! このまま、突いて、突いて、突きまくって! 奥まで、届かして!」  ぼくの慟哭に応えるように、タカハシは下から責めたてた。彼はなにを思ったろう。ぼくが狂ったと思ったろうか――――?  ぼくの勃ったペニスが二人の間で扱かれ、新しい快楽が腹の奥底からうねうねとのぼり始めた。タカハシは時間と共に荒々しさを増し、いっそう深く突きあげた。 「ああ…! そう――――アア…いい…気持ちいい――――! やって…タカハシ。もっと、ぼくを乱暴にやってしまって…壊してしまって――――!」  タカハシの首筋を必死に抱きしめて顔を埋めると、雄の匂いがした。もう石鹸の匂いなどしなかった。ぼくたちは息を荒げ、汗だくになって抱き合った。 「抱いて、抱いて、抱いて! ぼくの体を、強く、強く…タカハシ、お願い、お願い――――!」 「佳樹…」  擦れた声で呻き、その頼もしい腕で息ができないくらいにぼくを抱きしめる。 「抱きしめて! もっとだよ、もっと、強く…!」  鋭いピストンに突かれ、強く抱きしめられてギリギリと背中が鳴り、ぼくは体が内側から破壊されるのを感じた。  彼のペニスを深くアヌスに咥えたままぼくは願った。このまま壊れた骨が肺に刺さり、タカハシの腕の中で命もろとも果ててしまえばいい、と――――

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