39 / 70

p39

「そんなことより、続きしてよ。あんたの、すごく、気持ちいい――」  ぼくはタカハシの首に両腕をまわして引き寄せ、いったん盛りさがってしまった欲望の溝を埋めるみたいに、覚えたてのキスをねだった。  背中の痛みなど、どうでもいい。  タカハシに抱かれているうちに肺に肋骨が刺さって死ねるなら、本望だ。  タカハシの舌が胸やら腹やらを這い始める。ぼくの「いいところ」をすぐに見つけて特に念入りに苛める。その度に感じるぼくは、嬌声をあげて体を打ち振った。  短パンも難なく脱がされてしまった。  熱のある、固くたくましい手のひらがぼくのペニスを包み、指がゆっくりと這い――ぼくの先走った液を先端に塗りたくる。いやらしく、ちょうどいい強さで…。括れにまで、ぬるぬると。  ぼくは息もたえだえになって、快楽の嵐の中で身を揉んだ。 「ん、だめ――」  ひくついてとまらない腰は、途方もない快感に焙られていまにも蕩けそうだった。 「イッちゃうよ…」  タカハシが軽く笑う。 「まだだろ」 「あ…! ね…ぼく、あんたと一緒にイキたい。この間の、あいつみたいに。できる?」  疼く腰を大きくうねらせながら、ぼくはせがんだ。 「ああ、できると思う」  顔色ひとつ変えやしない。憎らしいくらいのポーカーフェイス。 「じゃあ、そろそろ繋がろうか」 「ん」  頷くと、ゆっくりと体をひっくり返された。 「背中、見ないでよ」  もう一度、念を押した。 「分かってる」  ぼくは習慣的に四つ這いになった。自分でも情けなるほどに慣れている姿勢。こんなぼくを見て、タカハシはなにを心中に感じるだろう。  尻を大きな手のひらで包まれた。油は塗ってこなかった。どんなに痛くてもタカハシをそのまま感じたくて…。 「あっ?」  突然、そこに思いがけない感触がして、体が竦んだ。…舌。舌が、あそこを舐めてる。 「んぁ…? ダメ、ダメだよ? そんなの、ダメ――――!」  タカハシがぼくの尻の谷間に顔を埋めている図なんて、とんでもないよ。 「いや、いやぁ…!」  這いずろうとしても腿をしっかりと捕まれて動けない。襞の一つ一つまでを丹念に舐めたかと思うと、窄まりの内側まで入り込んできそうなくらいに深く、鋭く、くじられる。 「ああっ! やめて――あんっ、ぁあっ、」  膝がわななく。またビンビンに勃起する。しばらくして舌の感触がやみ、かわりにぬるりとしたものが触れた。  タカハシは、ゼリーを使ってぼくの孔をほぐしていた。やがて、少しずつ指を増されながら内側までも柔らかくされる。なされるまま、ぼくはじっとしていた。いつも突然ぶち込まれるだけのぼくには、こんな手順など分からない。  やがて固いものがあてがわれる。  その時を予感して歯を食いしばった。  孔が押し広げられる。異物が侵入する。 「んぁ――おっきい…!」  どんだけの淫乱だよ、と思われそうな言葉を口走ってしまったことを、言ってから後悔する。  そのまま少しずつ挿し込まれる。悟さんみたいに乱暴にじゃない。ほぐされたからか、進入もありがたいほどつらくない。 「あ…」  肩で息をつくと、耳の後ろでタカハシがそっと呟く。 「すんなり入ったな」  静かにピストンを始める。少しずつ、様子を覗うみたいに。  一方でぼくは胸に不快な(もや)がわいた。 (どういう意味だよ、それって――)  確かに、どちらかといえば簡単に入った方だろう。指でほぐすのだって、もしかしたら他のやつより楽だったのかもしれない。  だってぼくはやられ慣れてるのだもの。いやいやだって毎日やられていたらお尻はガバガバになる。バージン(はじめて)や久しぶりのやつなら、それこそもっともっと入りにくくてつらいだろうけれど――と思った途端、心臓が激しく抉られた。頭の上から冷や水を浴びたみたいに、全身が冷たくなった。 (――ああ。なんだ。そっか…)  ぼくは苦々しく片頬を歪めた。これか、タカハシの言いたいのは。  タカハシは当然、気付いていたんだろう。もう、きっととっくに。たぶん、ぼくをこの部屋に入れたときから。  そうだよな。タカハシなら気付いたはずだ。  なにをって、昨日もぼくが「ステディ」とセックスしたってことを、だ。  別れるつもりだなんだと言いながら、ひょこひょことヤられたばかりのケツでここにやって来て、自分を誘ったってことをさ。  まったくぼくはバカだ。  タカハシは、ぼくをとんでもなく嘘つきな尻軽野郎だと思っていることだろう。これじゃ軽蔑されたってしかたない。申し開けることもない。 (ならば、いい。それでいい)  泣きたくなる気持ちを抑えた。  ぼくはいま、タカハシに抱かれて彼のものを咥えている。自分で望んだとおりに、だ。それでいいじゃないか。それだけが現実だろう?   ぼくのこのくだらない思考や頼りない感覚よりも確かなもの。ただ、彼と繋がっている、その事実だけがいまのぼくのすべて。それだけがいまのぼくを生かしている。だからいくら軽蔑されたっていい。いくら誤解されたってかまわない。

ともだちにシェアしよう!