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第1話、身分差の恋と色事
一見森の中に佇む古城にも見える伝統ある魔法大学院は、長い歴史があるのを建物の築年数が物語っていた。
重厚な門を潜ると円状に設計された学舎がある。
それを囲むように五つの寮が建てられていて、人族、精霊族、獣人族、人魚族、魔族とに分けられ、各種族の生徒が生活を送っていた。
校舎内は、箒で自由に空を飛び回れるように、四階の高さまで全てが吹き抜けになっていて、室温から外壁に至る迄、常に魔法で快適な温度に保たれている。
その内の一つの教室内では、二つの影が揺れていた。
夕刻の時間帯に、二人以外の人物はいない。
青い髪を乱しながら甘い吐息をついたレオン・ミリアーツは、背後にいるランベルト・イルサルの逞しい腕でしっかりと支えられていた。
ランベルトのホワイトグレーベージュの髪の毛は毛先にいくにつれて、パライバトルマリンと呼ばれる青緑色になっている。
ランベルトの長めの毛先が首や肩にかかるたびに、レオンは擽ったくて首を竦めた。
「ん、う、ぁ」
秘所を暴かれて内側を突かれながら、レオンは艶めかしい声音でランベルトに声をかけようと口を開く。
「あ、あっ、んぁ、ランベルト」
もうこれで連続三回目だ。そろそろツラい。
達した筈なのに、埋められたままのランベルトの陰茎は未だに硬度を保ち続けていて、抜かずの連チャンだろうと萎える気配もない。
これでは行為後に自力で歩けなくなってしまう。せめて体勢だけでも変えて欲しかった。
「レオン、もうこの体勢キツイ?」
とても性行為真っ最中とは思えない程に緩やかな声を聞きながら、レオンは必死に縦に頭を振った。
まず身長が違い過ぎるのも難なのだ。
足が浮くどころか体ごと宙に浮く。
自分で小さいと言ってしまうのは嫌なものだが、二メートル十センチはあるランベルトに比べて、レオンは百六十八センチしかない。
身長差が四十センチ以上はある上、体格も違い過ぎる。
腰から上を全て抱え上げられた状態になっているので、立ちバックと呼んでいいのかも怪しい。
「じゃあ、こっち向いて? 代わりに、奥……挿れていい?」
耳元で囁かれた声音に心臓が跳ねた。首筋に唇を落とされて、肩を竦める。
ソコに挿れられるといつも気持ち良くなりすぎて訳が分からなくなるから怖い。
ゾクリとした悪寒めいた快感が背筋を駆け抜けていく。
いくらランベルトが教室内に視覚誤認識魔法と防音魔法をかけているから誰にも見られないとは言え、バレないという確証もなかった。
どうしようかと考えている間に体を反転させられ、駅弁スタイルで対面する形になっていた。
濃すぎもせず薄すぎもしない、ランベルトの整った綺麗な顔が目の前にあって、レオンの心音を跳ねさせた。
毛髪と同じパライバトルマリン色の瞳は欲を孕んでいて、こちらを落ち着かせなくさせる。
「ねえ、いい? お願いレオン」
図体に似合わず甘えたな声で問われ、小さく頷く。
臀部に当たっている大きな手に押されて接合部が深くなっていく。グポンと音が鳴った瞬間、レオンはあまりの快感で潮を噴いた。
「あああ、ぁ、あッあん、ラン……ッベルト、あっ、ァッアア〜〜!」
「レオンの奥が俺の先端と亀頭に吸い付いてきて、ッ……、ヤバいね」
欲を孕んだ声音を聞いていると背筋がゾクゾクしてきて、思わず体を丸めてしまった。
「言う、な!」
詳細に解説しなくても自分でも気がついている。
ランベルトが動く度に魔法で生成した潤滑剤が、グチュグチュと音を立てて聴覚からも興奮を煽られた。
「アアッあん、ふ……っ、ああ!」
激しくなる動きに、レオンの表情が一段と蕩けていく。あまりの快感で目の前で火花が散った。
「気持ちいいね、レオン」
ランベルトからの問い掛けに合わせるように、頭がぼんやりしてくる。
「ん、……ちいい、気持ち……っ、ぁ、んんっぅ、気持ち良い」
中を擦られる度に、意識が白く霞んでいく。ランベルトに抱かれていると、毎回こうなってしまう。抱かれている時の記憶が所々飛ぶ。
「レオン……——、……からね」
「んぁ、あ、アっアア、や……な、に?」
声が遠いというか、やたら曇っていて音としては捉えられるけれど、言葉としては捉えきれずに聞き返した。
——何? 何て言っているんだ?
「頷いてみて?」
「う? うん」
訳が分からないまま、促されるようにコクリと頭を上下させる。
「可愛い、レオン。大好き」
直後、抽挿か激しくなって、最奥でランベルトの欲が弾けた。
〝可愛い〟〝好き〟〝大好き〟
その言葉たちは契約上の行為に含まれる遊びの内の一つで本気ではない。オモチャとかに向ける好きと同じだ。
この関係は〝セックスはしても好きにはならない事〟という条件で契約が成り立っているのだから。
——それももうすぐ終わる。
三ヶ月もすれば、この全寮制の魔法大学院を卒業しなければいけない。
一年生の時から続いている〝恋人ごっこ〟という契約が終わる。
ランベルトは精霊族の王族で、己とは違う。
卒業した後は、嫌でもそれぞれが住む国へ帰る事になっている。
精霊族が棲む土地は、人族が棲む場所からは遠過ぎるし、勝手に入国する事すらも許されない。
それに仮に行けたとしても、王族であるランベルトに謁見出来る可能性は限りなく無に等しい。実質上の終わりが来る。
交わる筈のない種族がこうして出会えたのは、今いる魔法大学院のお陰だった。
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