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第61話 欲情って

 僕は正直、ちょっと驚いたんだ。  自分は淡白なんだと思っていたから。  ほら、よく男子が彼女欲しいって話してたりするでしょう? 学生の頃はとくにそういうの結構話題にしていたり。僕はそれがちっともなくて。みんな焦っているのが、どうしてだろうって分からなかったんだ。好意を寄せていた女の子はいたけれど。彼女を見ているくらいで特に行動はしなかったし。近づきたいとか思わなかったし。  だから、恋愛事に関して、そもそも淡白なのだと思ってた。  けれど違っていたから。  ちょっと驚いた。  今の僕は早く君に触れたくてたまらない。 「佑久さん」 「ン」  触れて欲しくて、たまらない。  キスに自分から唇を開いた。  お風呂上がり、髪を乾かす間だけのために服はとりあえず着たけれど。 「ぁ、っ」  早く、和磨くんに触りたい。  和磨くんの素肌に。  僕の肌にも、触って欲しい。  和磨くんの手で。指で。 「まだ、佑久さん、髪少し濡れてる」 「へ、き」 「佑久さん?」  君に触りたい。 「? ちょっ、佑久さんっ?」  僕が覆い被さると、和磨くんが大慌てだ。寝転がって欲しいのに、肘をついて、背中をつかないようにしている。 「あの、僕が口で、する、から」  僕も寝転がらないよ。横にならないんだ。口でするから。だから、そのまま、和磨くんのベッドよりも少し小さな自分の寝床を降りると、その側に膝立ちになった。 「口で」 「ちょっ、待っ、俺はいいよ」  初めての時に、口でするのは次の時にね、って話してたでしょう?  その、二回目の時もしなかったから、今回はしたいんだ。和磨くんのこと、たくさん気持ち良くさせてあげたい。 「佑久さん、無理しなくていいよ」  僕は君に触りたい。 「ううん」  無理なんて、一ミリもしていない。 「したいから、だよ」 「っ」  僕の返事に和磨くんが喉を鳴らしたのが聞こえた。  あの、奇跡みたいな声を聴かせてくれる喉が、ごくん、って。  その、ごくんってした喉仏にドキドキしてる。 「します。……したい」  膝立ちになって、首を傾げながら、そっと、その喉仏に唇で触れる。そんなところ、って驚いたのか、和磨くんが飛び跳ねたと思ったくらい、ビクって身体を揺らした。  僕なそんなに驚かれたことに、ちょっと照れ臭くなりながら、たくさんの人を魅力する、その声そのものにキス、できた気がして嬉しかった。  それから、なんていうか。  ドキドキを通り越して、鼓動が早い。早くて、胸のところがぎゅっと苦しくなる。 「たまにさ」 「?」 「佑久さんって、魔性だよね」  僕が? その言葉は僕から一番遠いものの気がするけれど。 「口でしてもらう前にイクかと思ったじゃん。喉にキスとかさ」  そう言って和磨くんが笑った。笑いながら僕の唇にキスをして。 「マジで無理はしなくていいから」  キスしながらそう言ってくれた。温かい手が僕の手を連れて、もうすごく硬くなっている熱を触らせてくれる。 「触ってみ?」 「っ」 「やばいくらいガッチガチでしょ」 「ぅ、ん」  すごい、硬い。 「佑久さんに口でしてもらえるってだけで、こんな」 「僕が?」 「そ、佑久さんにめっちゃ興奮してる。ヤバ……佑久さんの手」  本当に? 「は、ぁっ」  和磨くんが僕の手の動きに合わせて眉をしかめてる。呼吸も乱れて。 「っ、佑久、さっ、ん」  嬉しかった。  嬉しくて、クラクラしながら、僕の手の動きに合わせてどんどん、もっと硬くなっていく、熱いそれにそっと口付けた。  唇で触れただけで、ビクってしてる。  和磨くんのが、跳ねて。 「あ……ン、む」  だから、口を開けて、咥えた。 「っっ」  いつも君にはもらうばかりだから。  だから、今日は和磨くんにしてあげたい。 「っ、はっ、すげ……ヤバい。佑久さん」  一度、離して、先端にキスをして、それから、口いっぱいに硬くなった和磨くんのをもっと深く咥えた。 「ン、ン……ン、む……ぁ、ふ」 「……飴玉、で、練習したって、言ってた、け」  そう。君といつかキスの先に進んだ時のためにって。  たくさん色々準備をしたくて。けれど、どれも、全然上手じゃなかったけれど。 「ありがと」  優しい声が、少し掠れてた。 「すげぇ、気持ちぃ……」  本当に?  何をするのも不器用な僕は最初から上手にできたことなんてないけど、でも、和磨くんのこと。 「っ、ちょ、そこからこっち見上げるの、反則」 「っ……ン、ぁ」 「やっ……ば」  ちゃんと、僕は気持ち良くできてる?  僕の口の中はちゃんと和磨くんのこと、気持ち良くさせてあげられている?  ちっとも、だったりしないかな。  下手くそで、ちょっとだけ、なんとなく気持ちいいくらいだったりしないかな。 「佑久さんっ」 「ん、ぁ……む」  僕は淡白なんだと思ってたし、あとね、僕は敬遠していたんだ。気恥ずかしいというか。そういう行為は少し、僕には縁遠い存在だったんだ。  嫌悪じゃないけれど。  自分が片想いの相手に、触れたいって思ったことがないからかな。そこまでの劣情を抱いたことがなかったからかな。 「佑久さんっ」  でも、今の僕は、淡白、じゃないんだ。  触りたくてたまらない。触って欲しくて仕方ない。一番近くがいい。一番、深くがいい。 「っ」 「ン……ん」 「っ、待っ、マジでっ、ちょっ、佑久さんって、っ、待っ!」 「……ン、ぁ」  それに、知ったんだ。 「まだ、和磨くん、その、イッてない、よ」 「あのねぇっ、さすがに、顔んとこで、イケないでしょ!」 「いいのに」 「良くないっつうの! 佑久さん、ホント、魔性すぎ」  欲情は、気恥ずかしくなるものではないし、敬遠するものでもない。 「ふふ」 「佑久さん」  欲情は、きっと、とても大好きな人には抱いてしまう気持ちなんだと。 「笑い事じゃないから。口でしてもらって、すぐにイきそうになったじゃん」 「いいのに」 「だーかーら、良くないっ」  知ったんだ。  恋をしているから、この欲情は淡くて優しいピンク色をしていたから。 「また、する」 「もう大丈夫です。マジで暴発すっから」 「うん」 「マジでっ」 「暴発していいよ」 「マージーで」  和磨くんとしている恋で沸き起こったどの感情も、なんだか優しくて、ふわふわしていて、温かい。それがとても僕は嬉しくて、額同士をくっつけながら笑って、続きをしませんか? と問うように和磨くんを呼んだ。

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