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第1話
「ちょっと便所……」
さっきコンビニでトイレを借りたばかりだ。その前の店でも二度ほどトイレに立っていた。
大浦さんの排泄頻度が非常に高い。
「えーっと、そこの公園に公衆トイレがありますから」
「おー。いこいこ」
大浦さんは体外に水分を排出するのが大好きなようだ。
◇
今日は大浦さんがメインで担当した夏祭りの最終日だった。
それまでもその夏祭りに観客として参加することもあったが、仕事で携わると思い入れは大きくなるし、現場で慌ただしく動いていると、観客とは違った高揚感がある。
特にこれは大浦さんの案件だ。
だからより良いものにしたいという思いも強かった。
うちの会社は地元ではそここそ名の通った広告代理店だ。大手代理店が請けた仕事がそのまま降りてくることも多い。
大浦さんはグループマネージャーという肩書きで、他社なら課長かその上くらいの立場だろうか。
うちの会社は案件ごとにチームで動くが、大浦さんは自分でグループ案件も受け持ち、他のチームへのチェックと助言もする。
本来ならグループマネージャーは部長の補助的な管理業務のみで、自分の案件以外のチームの面倒を見る必要はないのだが、皆ダメ出しのキツい部長への報告の前に、やる気になる助言と提案をくれる大浦さんにチェックをお願いしてしまう。
そんな大浦さんだから、一緒のチームになれば彼のために頑張ろうと思う社員も多い。
いつもすごく忙しいはずなのに、慌てた姿や疲れた様子を見せることはほとんどない。
けれど、今回の案件は違った。
次第に疲れた顔やぐったりと机に伏せる姿を見せるようになったのだ。
残業中ぼーっとした顔で夜食を取る大浦さんの横顔。
キーボードを打ちながら、まぶたが半開きになり『なんだよ打てねぇよ……』と寝ぼけた声で愚痴る大浦さん。
デスクで仮眠中、頭に被ったスーツの隙間から覗いた唇からあふれそうになったよだれを慌ててすする大浦さん。
そんな大浦さんに僕は……萌えた。
それまでもそこそこ大きな下心を持って見ていたが、基本的には尊敬できる大好きな上司という位置付けだったのに、くたびれた大浦さんは、どうしようもなく愛らしかった。
忙しい仕事の合間に大浦さんを見るだけでふぅ…と疲れが抜け、癒し効果は抜群だ。
しかし『弱った男』に弱いのは僕だけじゃない。
多くの社員がそれまで以上に大浦さんに優しくなった。
女子社員たちは疲れにいいからとお菓子を差し入れ、お茶を入れ、アロマを焚いたりなど代わる代わる大浦さんに尽くす。
いたって王道だけど気の利かない僕には真似できないアピール方法だ。
大浦さんのちょっと疲れた優しい笑顔と『ありがとう』の言葉をゲットしていく女子社員が羨ましい。
僕にできることと言えば、仕事を頑張ることくらいしかない。
けど仕事を頑張るのは社会人として当たり前の事で、何のアピールにもならない……。
夏祭り当日、当然大浦さんは大忙しだった。
けれど、祭りが始まればパカンと暇な時間ができることもある。
この日のメインイベントである花火が始まりしばらくして、運営テントのそばに大浦さんが立っているのを見つけた。
後ろに手を組んで、ぼーっと花火を見ている姿にまた萌える。
その姿を堪能した後、スッと隣に並ぶと僕を見てニコリと笑ってくれた。
ああ…デートの待ち合わせみたいだ。
見当違いだとはわかってるけど、そんな心情になってしまった。
……物陰に連れ込んで、キスしたい。
花火が弾けるように、大浦さんのシャツのボタンを飛ばし喘がせたい。
一度そんな妄想をしてしまえば、仕事に戻っても大浦さんを見るたびその思いが強くなる。
テキパキと働きながら、ずっとそんなことしか考えてなかった。
……まあ、日頃から飽く事無くいやらしい目で見続けてはいたけれど。
祭りも終わり、本日分の撤収完了ののち、僕と大浦さんの二人で会社に戻った。
ダンボールを置いた大浦さんが、崩れ落ちるように座り込む。
あられもなく股を開いて座り、力の抜けたエロすぎる表情でハァとため息をつく大浦さんの姿を目の当たりにした僕に、二つの選択肢が現れた。
1=引き起こして抱きしめる。
2=このまま押し倒す。
……どうせ歯牙にもかけられていないんだろうから、弱ってるところをいきなり押し倒してして夏の思い出作りをしてしまおうかと思ったが、エアコンの付いていないムンとした会社で……というのは少し辛い。
抱きしめるのも同様だ。暑苦しいと思われるだろう。
それに全く相手にされていないからといって、いきなり恋人への道を潰すのはもったいない。
やっぱりまずはデートだ。
憧れの机上プレイは諦め、大浦さんを飲みに誘った。
酒が入れば僕相手でもうっかりその気になってくれるかもしれない。
飲みにはあまり食いつきが良くなかったけれど、それに大浦さんが大好きなサウナも上乗せしたら驚くほどあっさり誘いに乗ってくれた。
初デートでいきなり裸の付き合い……なんて濃厚なデートプランだろう。
上機嫌な大浦さんに背中を押され、二人で会社を後にした。
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