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第2話
初デートなのだからおしゃれでムードのあるダイニングバーに。
大浦さんはビールを気に入ったようでパカパカと飲んでいる。
けれどやっぱり上司と部下の飲みという雰囲気を崩せない。
四十歳手前の大浦さんが酒を飲んだら、年相応に語り始めてしまうのはしょうがないだろう。
だけど、その内容はとにかく甘かった。
僕が仕事を抱え込まず他人に任せることができるようになってきたとか、他人の仕事を手伝おうとする姿勢はいいのでそのままもっと積極的にいけだとか、褒めと助言がワンセット。
さらに僕のことを若くてイケメンでモテそうだとか、わざと貶 すような口調で言ってくるのも可愛い。つまり大浦さんにとって僕のビジュアルは合格点ということだろう。
もちろん大浦さんの外見も余裕で合格点だ。
色々助言をくれた後のフッっと笑った目尻のシワが優しくて愛らしい。
一瞬にしてキュッと深くなる笑い皺に舌先を差し込んでなぞりたくなる。
ただ、僕がいくら『大浦さんも素敵ですよ』と言葉を尽くしても、おべっかだと思われ、口説いていると気づいてもらえない。
さらに必死で口説いている最中に『ちょっとトイレ……』と席を立ってしまう。
ビールを飲むとすごくトイレが近くなるらしい。
大浦さんはその店で結局2回トイレに立った。
僕はビールを1杯、大浦さんは3杯飲んで店を後にし、大浦さんお気に入りのサウナへ向かう。
けれどその途中、大浦さんはコンビニに立ち寄りまたトイレへ。
そんなにトイレに行ったら、サウナで汗も出ないんじゃないかと思っていたら、しっかり飲み物を買っていた。
コンビニを出てすぐに大浦さんが買ったばかりのペットボトルを僕の目の前にかざし、息が触れるくらいに顔を近づけてきた。
その目はちょっと酔いが回っているように見える。
「雲仙……間違えた……」
「え……何を買うつもりだったんですか?」
「水かスポーツドリンク……何でかな」
手にしているのはマンゴーミルクだ。
大浦さんのちょっと照れの入ったふてくされ顔が愛くるしい。
「雲仙……かえて来てくれね?俺、間違ったとか言いに行くの恥ずかしい……」
やっぱり酔ってる。
普段の大浦さんならモジモジとした様子で僕にこんなことを頼むなんてありえない。
しかも……。ああ……ちょっと突き出した唇がかわいい……。
「わかりました。スポーツドリンクでいいですね」
交換しに行く代わりに、その唇を吸っていいですか?
そんな条件を提示してみたい。
その後大浦さんはサウナまでの道中フッと酔いの回ったようなかわいい発言をしたと思ったらいつもの調子に戻ってを繰り返した。
ダイニングバーを出た時には普段通りに見えたけど、よくよく考えればこの時からすでにかなり酔いが回っていたに違いない。
通常の大浦さんなら部下が一緒の場合、サウナまで20分歩くなど言わず、前もってタクシーを呼んでいるはずだ。
けど良かった。僕はこうやって二人で歩いて、大浦さんの可愛い姿を目撃できたことがたまらなく嬉しい。
ちらりと横を見る。今はいつもの大浦さんだ。
はっきりした顔立ちで、男らしいあごと厚めの唇が魅惑的。
筋肉質な美ボディではないが、ほんの少しだらしない体だからこその、いい具合に熟した芳醇な男臭さがある。
透視妄想をしながらスーツ姿を眺めていると、大浦さんが急に立ち止まった。
「ちょっと便所……」
え……さっきコンビニでトイレを借りたばかりなのに……?
「えーっと、そこの公園に公衆トイレがありますから」
「おー。そこいこ」
少し歩いたマンションの谷間に公園があった。
さすがに人の姿はない。けれど防災拠点としての機能と防犯のために深夜でも明るく街灯が灯されている。
大浦さんは嬉しそうな足取りでタイル張りの明るい公衆トイレに入って行った。
「雲仙……ちょっと!!」
トイレの外で待っていると、大浦さんに呼ばれた。
何事かと中に入ると、大浦さんが小便器の前で困り顔を見せている。
「どうしたんですか?」
「困った……ズボンが落ちる」
「……は???」
大浦さんはなぜかベルトを外し、ボタンとファスナーをあけたスラックスのウエストを掴んでいた。
「手を離すとズボンが落ちるだろ?ションベンできないから持って」
「え……???」
何を言われているのかわからずに一瞬固まった。
けれどトイレで酔っぱらいモードとなり、うっかりベルトを外してどうしたらいいのかわからなくなったんだろう。
すぐに大浦さんの背後に回り、ウキウキしながら背中に体を密着させ、さっと両手を伸ばす。
「えっ…!? 雲仙違う。こっち持って」
「どうぞ遠慮なく……」
下着に手を差し込み、ふんわり柔らかな大浦さんのモノを取り出した。
大浦さんは困ったように僕を振り返って腰をもぞもぞさせる。けれど大浦さんに『持って』と言われたから持ったのだ。
何を持つか明確に指示されていないのだから、コレでも問題はないだろう。
「ちょ……雲仙……違う…違う……」
「違いませんよ。トイレするんですよね?」
スラックスを持とうが、モノを持とうが、酔っぱらいモードの大浦さんが僕の目の前で放尿ショーをしてくれるつもりだったことに変わりはない。
「う……いや……これは……ひゃ…」
暖かく広い背中をギュッと抱き込み、目の前の美味しそうなうなじをペロリとひと舐めすると、可愛らしい声をあげてくれた。
汗の匂いと塩味 で旨味を感じる。これが熟成された男の味か。
大浦さんのうなじをペロペロしながら日本酒をいただいたらさぞかし最高の気分だろう。
「さあ、僕がしっかり支えていますから思う存分放出してください。それとも少ししごいた方がいいですか」
柔らかな大浦さんのモノの根元をキュッと握り、反対の手で先端近くを指でキュッキュと絞ると、少しだけ張りが出てきた。
まだまだフニャチンだけど、このままならすぐにガチガチに……。
「いや……いい…なんか…引っ込んだ」
「それはいけない……」
「いや、いけなくない。もう出ない」
先端に指を差し込み尿意を誘おうとしたけれど、大浦さんに逃げられてしまった。
「……こちらじゃ落ち着いてできないなら、個室へ行きますか?」
その言葉に大浦さんがピクリと反応を示し、じっと個室のドアを見つめた。
これは……もしかして連れ込みOK……?
「う……?えーっと、ああそうか!個室見てたらな、最近座りションしてる男が多いっていう話を思い出してな、それでついついベルトを外したんだけどな、知ってたか雲仙、ベルトを外すと立ってションベンしづらいんだぞ!」
「へえ、そうなんですね」
わけのわからないことを言う大浦さんが可愛い。
けれど個室へのお誘いはなかった事にされてしまった。
「雲仙、サウナ行くぞ。俺はな、汗かきたいんだ」
「大浦さんの首筋、塩味が効いて美味しかったです。あとでサウナで汗かいた首筋と舐め比べてもいいですか?」
「はぁ…?味違うのか?」
「それを比べたいんです」
「そうか雲仙は勉強熱心だなー。じゃ、行くか」
酔っぱらいモードの大浦さんならOKしてくれるんじゃないかと思ったけど、グレー回答だった。しかし、ダメだとは言われていない。
この調子なら、ちょっと酔いが回った時に首筋を舐めまわしても怒られることはなさそうだ。
トイレから出れば急にいつもの大浦さんに戻り、僕の歩調を確認しながら半歩先を歩いていく。
……後ろから見る大浦さんの肩が好きだ。
いろんなことを背負って、だけどその重さを感じさせない、スッとした肩だ。
その肩が疲れで下がれば、支えたいと思うのは僕だけじゃない。
なんでもないような顔をして、色々背負いこむこの人を癒したい。
この人を振り向かせたい。そして独占したい。
ついでにイヤらしいこともしたい。一挙両得的に。
さっきトイレでチンコを支えて、その思いがより強くなった。
できることなら心が欲しい。
けど今は手っ取り早く体にふれたい。酔った勢いという言い訳の下で。
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