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第3話

レトロで昔の病院を思わせる外観の小さなホテルに着くと、大浦さんは慣れた様子で受付を通り、サウナの看板が掲げられた階段を登って行った。 ホテルに併設されたサウナは、綺麗なロッカールームや専用の浴衣があるわけでもない、蛍光灯も暗めのとにかく古い施設だった。 脱衣所に到着するまで大浦さんはしっかりとした様子だったので、もう酔いはさめたのだろうと思っていたのに、また様子がおかしい。 「大浦さん、まだ下着穿いたままです」 「あらら……?ってか、雲仙くんパンツ掴んで止めるのやめろよ。伸びる」 クレームをつけられたので引くのはやめ、尻をガン見しながらソロソロとパンツを下ろしてみた。 「……雲仙くんって……そんな呼び方されるの初めてなんですけど」 ちょっと舌ったらずに可愛らしく名字を呼ばれドキドキしてしまった。 そして大浦さんは素直に足を上げてグレーのボクサーパンツから片足づつ抜いていく。 「なんだ不満か?じゃなんて呼べばいい?」 「え……ミズホ?あ、いやそういう事じゃなく……」 大浦さんに優しい目で見つめられ『瑞穂一緒に風呂入ろうか?』なんて言われたら……あ…ああ…ときめく。 そして、目の前のしっかりとしたお尻にかじりつきたい……。 「よし、ミズホくん浴場にGOだ」 「ミ、ミズホくんって……。大浦さん本当にさっきから急にノリが変わりすぎです」 かっこよく『瑞穂…』ではなく、可愛らしく『ミズホくん』と呼ばれると、トキメキよりも萌えが勝つ。 そして『ミズホくん欲情にGOだ』と意識的に誤変換するのを止められない。 大浦さんに背中を押され浴室に入る。 色々なタイプのサウナや岩盤浴などがある施設を想像していたけど、ここはかなりシンプルなサウナのようだ。 そこそこの広さの浴槽と水風呂とジャグジーに水風呂。メインのはずのサウナはそこまで広くはない。 僕たちの他に数人の客がサウナと浴室を往復している。 狭い密室で大浦さんと二人きり……という妄想でいっぱいだった僕は、全ての夢が打ち砕かれたような気分になってしまった。 ……しょうがない。 こうなったら、大浦さんのシモの毛の白髪の数さえ記憶できるくらい裸体を眺めまくることにしよう。 ……と思ったのに、大浦さんが湯船に浸かったまま出ようとしない……。 なぜ……。 サウナに来たんじゃないんですか?? 裸の大浦さんのそばでやや興奮気味の今の僕に、長湯は辛いです……。 微妙に張り切っていた僕の股間も次第にぐったりしてきた。 どうしよう。 まだサウナに入ってないのに汗がすごい。 今大浦さんにサウナに行かれたら……どうしよう。この状態でついていくのは無理だ。 「……どうした?」 落ち着きがなさすぎたんだろう。大浦さんに尋ねられてしまった。 「あの、サウナ入らないんですか?」 「風呂で体ほぐしてからサウナに入るのが好きなんだよ。別に俺に合わせることないから、ミズホくんは自由に休憩したりサウナに行ったりしていいんだぞ?」 自由に……したいけど、できれば大浦さんのそばから離れたくない。 けど……けど、もう無理だ。 のぼせてブッ倒れるよりはマシだ。水風呂………! 勢いよく立ち上がって水風呂を目指したけど、その冷たさに膝まで入るのが精一杯だった。 背中は熱くて汗が吹き出してるのに、足は冷たくて、毛穴が開くべきか閉じるべきか悩んでいる。 とりあえず水風呂のヘリに座り、手のひらで水をすくって背中にかけた。 やっぱり冷たい……けど我慢できないほどじゃない。 ハァ……思わずため息がでた。 すると大浦さんに笑われてしまった。 サウナ慣れしてる大浦さんにしてみれば水風呂に震えながら汗をかいている僕はどうにも情けなく見えるんだろう。 ああ、こんな時にみっともない姿さらしてしまうなんて。 ……あ、しかも大浦さんがサウナに。 どうしよう。 いやダメだ。今行ったらすぐサウナから退場するハメになりまた笑われてしまう。 しっかり体を冷やしてから行けば、その頃には大浦さんは汗だく濡れ濡れのセクシーボディで僕を迎えてくれるはずだ。 僕は水風呂に辛うじて腰まで浸かり、時間をかけて頭と体をしっかり冷やした。 ……そうだ。冷静になれ。 さっきまでの僕は大浦さんにアピールだの口説くだのと張り切っていたけど、その一方、本音の部分では『どうせ無理だろう』と思っていた。 だから『大浦さんのガードが緩んでいるこの隙に』という思いが先立って、こっそりさわったり、押し倒したり、舐め回したりしたいという衝動にかられまくっていた。 けれど、その発想はほぼ痴漢だ。 それじゃダメだ。 強制わいせつスレスレのことなんかしなくとも、今日の大浦さんのノリならさっきのトイレのように、同意の上でおさわりする事だってできるはず。 一夜の過ちでもいいけれど、できる事なら継続的な関係を目指したい。 そのために必要なのは酔って判断の緩くなってしまった大浦さんの合意の上での合法エロだ。 ただの痴漢野郎に成り下がるわけにはいかない。 よし、行動の方向性は定まった。 いざ、大浦さんの待つサウナルームへ。

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