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第9話

「ああ、これですか?」 僕の鎖骨の辺りに赤い線が一本走っていた。 「アレルギーの1種らしいんですけど、軽く引っ掻いただけで普通の人より肌が赤くなったり、ミミズ腫れになったりする体質なんです」 腕の内側をピッと軽く爪でひっかいてみせると、その軌跡に沿って赤い線が走った。 「うぇ……痛くないの?」 「痛みはないですよ。軽く引っ掻いた程度だと数時間で消えますし。人よりちょっと派手に反応するだけです」 「へぇ……」 眠そうな目な大浦さんが手を伸ばすので、僕が腕を差し出すと、軽く爪で引っ掻いて赤く走る線に感心したような表情を見せた。 「ほんと、軽く引っ掻いただけで、全身どこでもこんな風になるのか?」 「皮膚が柔らかなとこの方が赤くなりやすいようですけど、だいたい全身ですね」 ちょいちょいと人差し指で呼ばれたので体を寄せると、半分眠りかけている大浦さんが僕の胸にピッと指を突き立てた。 ピッ……ピッ……。大浦さんの爪が走る。 「あ、すげ……ほんとしっかり線が出るな」 軽く引っ掻いた爪の跡が、一瞬白くなったあと、パァ~と赤い線となり周囲はポワンとピンクに滲んだ。 僕の左胸に浮かび上がったのは大きなハートマーク。 「ふへへっっ。いい出来」 大浦さんはシーツに沈んで嬉しそうに僕の胸のハートを眺めている。 ……か……可愛い。 楽しそうな大浦さんの顔と自分の胸に浮かぶハートを見比べる。 このハートには意味があるのか……。 ドキドキしつつ大混乱だ。 「背中、背中」 「え……あ、はい」 言われるままに背中を向ける。 また大きなハートが描かれたのはわかった。 けれど何か文字が追加された。 書き終えパタンと手を下ろした大浦さんは、すぐに目をつむり手探りで枕を抱きしめた。 「大浦さん、なんて書いたんですか?」 「ふぁ……朝には消えるんだよな?」 「それはわからないです。線は消えてもうっ血したみたいにプツプツと赤い跡が残ることもあるんで」 「えぇ……?んじゃ、朝に残ってたらなんて書いたか教えてやるから見るなよ。ンぁ……?これ夢だっけ……?」 「は……?夢じゃないですよ。だから何を書いたか教えてくださよ」 「ふぁ……?書いたのは……ん~……だから胸のと一緒だよ。でも見たらダメ……だぞ」 「違いますよね、何か文字も書いてた」 「もーーうるさい。大したこと書いてないし。寝かせろよ」 「う……すみません」 叱られてしまえば、僕はもう口を閉じるしかない。 大浦さんは再び眠りに入っていた。 背中に何を書かれてたのか気になるけど『見たらダメ』という言葉に逆らえば、ハートに込められた大浦さんの好意まで消えてしまいそうで、僕は大人しく借りたTシャツを着た。 けど……やっぱり気になって、部屋にあった姿見に背中を映し、見てしまわないように気をつけながら、Tシャツをはぐって鏡越しにスマホ撮影をした。 文字……ちゃんと写ったかな。 ちょっと心配だったので、胸に書かれたハートマークも鏡ごしに写した。 ……このアングル……。 大浦さんに借りたTシャツをめくり赤いハートが描かれた胸を晒す僕の背後に、ベッドに寝てる大浦さんもちらっと写り込んでる。 はぁ……こんな妄想を掻き立てる甘い写真……最高だ……。 すっかり眠ってしまった大浦さんの隣に滑り込むと、チュッと耳にキスを落として腰を抱き込み一緒に寝る。 さっきまでの悶々としたスケベ心はすっかりどこかへ行ってしまった。 僕の胸には大浦さんのハートマークが残り、とろけ出しそうな甘さに満たされている。 ちゅ……。 大浦さんのまぶたに、ふれるだけのキスを落とす。 「大浦さん……好きです。大好きです」 僕の囁きの後、寝ているはずの大浦さんが小さく微笑んだのは偶然だろうか。 大浦さんの腕が僕の体を抱きしめ返した。 その腕から、僕への好意を感じてしまうのは……思い上がりじゃないですよね。 目をつむって力を抜けば、すぐに眠りがやって来た。 ああ……朝になったら人生初の放尿プレイか……。 けど、今ならすごく積極的になれそうな気がする。 具体的に何をどうすればいいのかよくわからないけど、大浦さんの指示に従えば間違いはないだろう。 けれどそれじゃあ、意外性に欠ける。 何か一つでも大浦さんの想像を超えることをしたい。 ……そうだ。必ず二度寝するクセがあると言っていたから、二度目の目覚めの時に大浦さんの乳首を舐めしゃぶって起こしてみよう。 大浦さんは乳首責めが大好きみたいだから、きっと喜んでくれるはずだ。 そうそう朝の会議のときに時々妄想していた朝勃ちしゃぶりもしてみたいんだよな……。 体も半分眠っていたけれどどうにか手を動かし、Tシャツの上から大浦さんの乳首を摘んだ。 お・や・す・み・な・さ・い 人差し指で乳首を弾いて挨拶すると、大浦さんの体もビクンビクンと反応してくれた。 ……大浦さん、良い夢を。 朝になったら……限界突破して頑張りますね。 《終》

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