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第1話

 黒熊配送センターで働く配達員たちの間には、まことしやかにささやかれている噂話がある。  それは、 『配達で訪れた先で、ドエロい人妻とパコれる家があるらしい』  という噂である。  誰が言い出したものかは知れない。この噂が事実なのかもわからない。  しかしなぜかこの噂を男性配達員はほぼ全員知っている。 「都市伝説でしょ」  佐久間は小鼻を膨らませてその噂話を告げてきた同僚へと、呆れた目を向けた。 「それかAVと現実がごっちゃになってるか」  ふっ、と指先に息を吹きかけたついでに嘲笑すると、同僚が怒ったように西宮の手から爪切りを取り上げた。  お客様の荷物を運ぶ際に余計な傷をつけないよう、爪はいつも短く整えなければならない、という決まりがこの会社にはある。  どうせ軍手をはめるのだから意味ないだろうに、と西宮は思うが、女性じゃないので爪を伸ばす習慣もないので惰性のように日々整えてしまう。  同僚がジットリとこちらを睨んできた。 「なんだよ」 「いや、おまえはそりゃ巨乳の彼女が居るしイケメンだしリア充だから、人妻とのオフパコには興味ないだろうけどさぁ! でもこの噂、気になんねぇの?」 「噂はただのう、わ、さ。そんな人妻居るわけないって。そりゃ配達先で人妻に即尺されたりとかは夢があるけどな」  西宮が生きているのは残念ながら夢の世界ではなく現実世界だ。淫乱人妻とのめるくめくセックスには胸がときめくが、西宮にはFカップの彼女のゆまちゃんが居るし、いまのところ欲求不満ではないので夢物語みたいな猥談に付き合う義理もなかった。  まだ話したそうにしている同僚に、 「爪切り、片づけといて」  と告げてデスクの上の配達表を取り、早々に本日の業務に赴いた。

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