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第2話

 黒熊配送センターが他の宅配業界と大きく違う点は、『荷物を運ぶ』ことだけが仕事内容ではない、ということだ。  昨今の少子高齢化やひとり暮らし世帯の増加を受け、社長が近年立ち上げたのが、『荷物を配達ついでになにかお手伝いをいたしますサービス』だ。  十五分程度でできる用事があれば無償でお手伝いしますよ、というサービスである(終わらなければ延長もできるが、それは有償となる)。  これが結構受けた。  特にお年寄りの家に行くと、電球を変えてほしい、エアコンの掃除をしてほしい、ちょっとそこまで買い物に行ってきてほしい等々なにかしらの用事を言いつかることが多い。西宮は祖父母と同居したことがないし、夏休みなどに遊びに行く田舎というものもなかったので、最初こそお年寄りの相手などどうすればいいかわからなかったのだが、ささいな手伝いで大変喜んでくれる顔を見ていると、いまではこの『お手伝いサービス』は結構自分の性に合ってるんじゃないかと思っている。  今日も一軒目に立ち寄った家でソファの位置替えを手伝って、お礼にともらった冷たいジュースを飲んでから、二軒目、三軒目と順調に回った。  そしてそろそろ昼に差し掛かろうとする頃合い、休憩前の最後の一軒にと決めたそこは、団地であった。  確か、この辺の地方自治体が独自で作ったという同性愛者専用の団地だ。敷地や外観はとてもきれいだし結構中も広い。バリアフリーになっているから荷物の運搬もスムーズだ。  西宮はさほど重くない段ボールを小脇に抱え、エレベーターに乗って目当ての階で降りた。  インターホンを鳴らすと、すぐに「はい」と応答がある。 「黒熊配送センターです。お荷物お届けにあがりました!」  西宮がハキハキ答えると、数秒もしないうちにドアが開いた。  出てきたのは男性だった。  男性なのに……なんだろう、独特の雰囲気がある。 「えっと、芦屋晴樹さんにお届け物です」 「ありがとうございます」  長めの前髪を耳にかけながら、彼が軽く頭を下げた。睫毛が長い。美形だ。  ここが同性愛者専用の団地ということは、彼はゲイなのか。  そう思って見るからだろうか。どことなく彼からは女性的な匂いがする気がする。 (いやいやべつにゲイだからって、このひとが女役かどうかわかんないし)  内心で首を振っておのれのおかしな考えを振り払っていると、彼が受け取り欄に押印しようとした手を止めて、じっとこちらを見つめていることに気づいた。 「どうされました?」 「いえ……あの……」 「はい?」 「黒熊さんは、お手伝いサービスがあると聞いてるんですが」 「あ、はい! 十五分以内ででることなら喜んでお手伝いさせていただきますよ!」 「それでしたら、あの……オレと一緒に、この荷物の中を確認してくれませんか? いまは夫も居ないので……」 「はぁ……」  依頼の内容がよくわからず、西宮は首を傾げた。  彼は西宮の肩越しに廊下へと視線を走らせ、 「とりあえず中に」  と玄関の中に西宮を招いた。なんだろう。ご近所に聞かれたくない話なのだろうか。

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