彼はドアを閉めると、困り顔で西宮を見上げてきた。 　なんというか……その顔にはそこはかとない色気がある。無意識にごくりと喉が鳴ってしまった。 「あの、これ、オレ宛ての荷物なんですが」 　段ボールの宛名にトンと指先を乗せて、彼が切り出す。 　なるほど、とするとこのひとが芦屋晴樹か。 　西宮が頷いたことを確認してから、彼……晴樹が言葉を続けた。 「実は最近不審な荷物がよく届くようになってて」 「え？」 「それで、荷物を開けるのがすこし怖くて……」 「大変じゃないですか。警察呼びますか？」 「いえ、あの、警察にはちょっと相談しにくいので……夫には、話してるんですが……」 　夫。さっきも出てきた単語だ。 　夫。ということはこのひとは人妻か。 　脳裏に、朝の同僚の話がよみがえって来る。 　ドエロい人妻とパコれる家があるという噂……。 　いや待て。人妻は人妻でもこのひとは男だ。だがしかし晴樹ほど色気があればべつに男でもいい気がする。むしろ男ゆえの色気というか……。 　思考がおかしな方向に流れそうになって、西宮は空咳をした。 「えっと、じゃあ、ご主人はなんて……」 「夫は、あんまり気にするなって……。でも、ひとりで荷物を開けるのは怖いので、黒熊さん……あ、お名前は？」 「あ、俺は西宮といいます」 「西宮さん、良かったら一緒に中身を確認してくれませんか？」 「俺で良ければ、全然」 　西宮は力強く請け負って、奥さん（人妻なのだからそう呼んでもおかしくないだろう）の許可を得た上で段ボールのガムテープをはがした。 　いったい中身はなんだ……と緊張しながら開くと、黒い不透明な袋が見えた。 　袋を取り出して、段ボールは廊下に置かせてもらう。 「破っちゃっていいですか？」 　奥さんが了承するのを聞いてから、軍手を外して素手で袋を破った。 　中身が見えた。 　なんだろう。数枚の写真と、小さな布と……それから……。 　これは……。 「お、奥さん、これ……」 　西宮の喉から上ずった声が飛び出した。 　写真に写っていたのは奥さん本人なのだが……なんと、セクシーなパンツ一枚で自慰に耽っている、なんともけしからん写真だったのだ。 　奥さんの頬が真っ赤に染まった。 「ああ……」 　喘ぎのような、絶望のような、なんともいえない吐息を奥さんが漏らす。 「やっぱり、盗み撮りされてる……」 　盗み撮り……盗撮か！　西宮は恥ずかしそうに下唇を噛む奥さんと、足を割り開きセクシーパンツの横から淫具を覗かせている写真の奥さんを見比べた。 　合成ではなく、盗撮。ということはこの奥さんが写真のような恥態を繰り広げたことは事実なのだ。 「奥さん、これ、この家のどの場所なんですか？」 「え？」 「隠しカメラとかないか、探しましょうか？」 「そんな……そこまでしていただくわけには」 「でも、こんな恥ずかしい映像撮られちゃって、不安でしょう」 　ひらり、と自慰の写真を動かすと、奥さんの耳朶がさらに赤くなった。羞恥にだろうか、目が潤んでいる。 　エロいなぁ、と西宮は思った。 　こんな色気満々な奥さん、そりゃ盗撮もされちゃうよ。 「よくひとりでこうやって遊んでるんですか？」 「え……」 「これ、バイブですよね？　エッチな紐パン履いて、後ろにオモチャ突っ込んで、こんなに足広げてオナってんの？」 「い、言わないでください……」 　奥さんが両手を顔の前に翳し、嫌々をするように首を横に振った。西宮はその手首を掴み、奥さんへと近づいた。 「こんな写真が入ってるかもってわかってて、俺に開けさせたんでしょ？　どうします？」 「え？」 「これ。盗撮野郎から届いたパンティ。それから、ほら。ローターも。使います？」 「に、西宮さん……」 「ひとりで遊びたいですか？　それとも、俺と？」 　イケメンと言われることが多いキメ顔を意識して奥さんに迫ると、奥さんはまた「ああ」と喘ぐような吐息を零した。 「黒熊配送は、お客様のご要望があればなんでもお手伝いできますよ？」 　ダメ押し、とばかりにパンティとローターを奥さんの胸に押し付ける。 　奥さんの潤んだ目が西宮を映し、揺らいだ。 「お手伝い……」 「そう。こんなふうにオナるぐらいなら、俺のコレ、貸してもいいですし」 　西宮は奥さんの下腹部に、おのれのそれを密着させた。 　そのまま腰を揺らすと、奥さんが生唾を飲んだのがわかった。 「…………夫には、言わないで……」 　小さな囁き声。その言葉に西宮はにっこりと笑って頷く。 「もちろん」 　奥さんがゆるゆると息を吐き、西宮の手からパンティとローターを受け取った。