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第5話
奥さんが出してくれたホットタオルで体をさっと拭き、身支度を整えてから、西宮は芦屋家を後にした。
帰る前に見た奥さんの笑顔が忘れられない。
「西宮さん、また……」
名残惜しそうに手を振って、「また」と言った奥さん。
また。
またの機会が巡ってくるのがいまから楽しみだ。
その後残りの仕事を終えた西宮は、配送センターに戻り、朝に会話をしていた同僚の姿を見つけた。
あの噂は本当だったぞ、と言ってやろうと思い、いやいやと留まった。
あんないやらしい人妻があの団地に居るなんて広まったら、大変なことになる。
西宮のせいで変な噂が広まって、奥さんがあの団地に居られなくなったら困るし、なにより旦那にバレたら大変だ。
西宮が奥さんとの秘め事をおのれの中のみに収めておくことができれば、「また」奥さんとああいうことができるかもしれないのだから!
西宮はそう納得して、
「お疲れ~」
と同僚に軽い挨拶をして家路についたのだった。
西宮を送り出した後、晴樹はリビングへと戻った。
数分もしない内に夫が入ってくる。
「恭祐さん、お帰りなさい」
「ただいま。どうだった? 黒熊配送くんは」
「中々良かったですよ。でも、恭祐さんが急にインターホン鳴らすからびっくりしちゃった」
晴樹が眉をしかめてクレームを入れると、恭祐が男らしく整った顔をゆるめて笑った。
「いい演出だったろ。玄関先でセックスなんてシチュエーションなんだ。あれぐらいしないと」
夫の言い分に、晴樹はふふっとふきだした。
「ローターも下着も使ったのか?」
「はい。でもあんなきわどい写真入れるなんて聞いてませんでしたけど」
「ははっ。あれがあったから誘いやすかっただろ。どれ、俺の居ない間に配達員とセックスをした妻の孔の具合はどうかな」
ネクタイを緩め、のしかかってくる夫の体を抱きしめながら、晴樹はうっとりとキスをした。
「確かめてください。オレの体の隅々まで」
恭祐の目が、獰猛に光った。
他の男に抱かれた体を、夫へと差し出す。
他人から見たらおかしな関係だろうけど、自分たち二人の間ではこれが愛の形だった。
誰にも理解されなくていい。
恭祐さえ、晴樹を受け入れてくれたら。
晴樹は今日もまた、嫉妬を纏う恭祐の熱に炙られ、どろどろに溶かされた……。
END
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