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第1話 ロキとラムズの放課後特訓
『本日未明、D級スフィア型クリーチャーが一体、山中で目撃されました。クリーチャーは通報を受けた山岳警備隊により討伐されました。』
剣士の白城ロキ、同じく剣士のフレア、魔導士のリュウレイは学食でラーメンを食べながらニュースを見ていた。
「一般の警察官でもD級ならレーザーガンで倒せるけど、複数ならD級でもヤバいよな…。」
フレムはラーメンをすすりながら言った。
「異能者も増えてるようですし、来年は学園の入学者が増えるかもしれないですね。」
ロキとフレムは16歳。リュウレイは1歳下だ。
ほぼ同い年だが、リュウレイは敬語を使う。
このドゥルゴリー学園は、世界一の財閥、ドゥルゴリー一族が設立した異能者専門の寮制の学校だ。
『異能者』というのは、超能力や魔法などの異能を使う人間のことだ。
異能が発現すると、そのままでは一般社会で生活できない。
だから、この学園に入学し、力のコントロールの仕方と生き方を学ぶのだ。
「ロキ、全然食べてないじゃん。それじゃ今から始まるラムズ理事の放課後特訓もたないよ。」
「そ、そうだよね…。今から緊張しても仕方ないよね…。うん…。」
フレムに言われて、ロキはなんとか食べようとするが、全然のどを通らない。
本来は、異能の発現後に入学するか、入学後3ヶ月以内に異能が開発される。
が、ロキは入学して4年も経つが、異能が全く発現していなかった。
そこで、学園理事の一人、クロフィード・ラムズが直に指導をすることになったのだ。
「権力者で、S級クリーチャーも一人で倒せるラムズ理事に緊張するのはわかるけど、逆になりふり構わず胸を借りるつもりで!でもいいんじゃない?」
フレムが激励する。
「そうなんだけど…。僕を学園に入れてくれたのはラムズ理事なのに、肝心の異能が無いなんて、申し訳なさすぎてさ…。」
前向きな性格と自負するロキだが、さすがに4年の無能は重すぎた。
「だからこその特訓ですし。今更そんなことを気にせず、ぶつかるしかないんじゃないでしょうか。」
リュウレイの正論が突き刺さった。
「だよね…。がんばる…。」
3人は食器を片付け、グランドに移動した。
♢♢♢
グランドにはたくさんの生徒が見学に来ていた。
理事と学園内で接することはなかなかないし、まして剣を振るうところなんて見ることはできない。
女子は理事の美貌見たさに、男子は最強の剣技を見に来ている。
ギャラリーの多さもロキのプレッシャーになった。
ラムズ理事は詰襟のコートのような法衣を着ていた。
艶やかな黒髪に透き通るような肌。
深い青い目と、その青さと同じ輝きを持つピアスをしている。
見た目だけでは全く戦士には見えず、まるで聖職者のような気品があった。
一方、ロキはきちんと実戦用の戦闘服を着ていた。
訓練とはいえ、ラムズは山一個消し飛ばせるくらいの力がある。
万が一のケガに備えてだ。
「じゃあ、始めようか。とりあえず、好きなように攻撃してきて。遠慮はいらないから。」
ラムズはレーザーソードを片手で構えた。
ロキもレーザーソードを構え、切り掛かる。
何回か切り掛かるが、どれも軽くはじかれる。
「ロキは、剣技の基本は悪くないんだけど、人を攻撃すること自体が向いていないというか…。」
フレムが悩ましげに言う。
「根本的に優しいんですよね。ヒーリングや結界系の指導を受けた方がいいと思うのですが…。」
リュウレイも、ロキが剣士の指導を受けることに疑問を持っていた。
剣士にこだわっているのは、ラムズ理事らしい。
ラムズが少し力を入れてはじくと、ロキはいとも簡単に吹っ飛ばされた。
受け身をとり、もう一度切り掛かる。
今度はひねりを入れられた反撃で、ラムズの体は一瞬宙に浮き、地面に叩きつけられた。
ギャラリーから、おぉ!と、どよめきが起こる。
(ダメだ、全然スキがない…。)
途方に暮れながら立ちあがろうとすると、ラムズが手を差し出して立たせてくれた。
ラムズはロキの戦闘服をはたいて土を払ってあげる。
「あまり構えずに。でも、自分の限界に挑戦していかないと、強くなれないよ。」
と言いながら、ロキの頭を撫でた。
激甘…。
過保護…。
溺愛…。
ギャラリーからそんなつぶやきが聞こえてきた。
女子からは羨ましいという眼差しが、男子からはロキのこれからが心配という眼差しが向けられた。
「ラムズ理事が剣技しか教えられないから、ロキもそうなんだ…って噂もありますが、どうなんですかね…。」
リュウレイがそっとフレムに言う。
「確かに…手合わせという名目でイチャついてるようにしか見えないよな…。」
戦闘系の異能者育成なら、手合わせでボコボコにされてナンボ。
頭を撫でられている場合ではない。
生徒には一人一人に担任がついていたが、ロキの担任は異例のラムズ理事だ。
ラムズがロキに激甘なことが、ロキの異能開発を妨げていると噂されている。
『彼は、他の生徒が途中で辞めてしまうような、生活の自律、瞑想などの地味な修行を長く続けてきました。時間をかけただけの結果は出るはずです。彼はかならず立派な戦士になります。』
ロキについて聞かれると、ラムズはいつもそう答えるらしい。
真面目なだけで強くなれるなら、苦労しないよ…。
フレムとリュウレイは、悩むロキをチームメイトとして不憫に思っていた。
二人の次の手合わせがなかなか始まらないので、フレムが一歩前に出て言った。
「あの!ラムズ理事!失礼なのは承知の上なのですが、私にも一回だけお手合わせいただけますか?!」
「いいですよ。では、こちらへ。」
位置に着くと、フレムはレーザーソードを構えた。
ラムズは今回も片手でソードを持っている。
せめて、両手を使わせたい。
フレムは技を放った。
―火炎の舞-
フレムの剣から炎が生まれ、炎をまとった剣撃がラムズに向かって放たれる。
フレムは学園一の炎武剣士だ。
力強い炎の技にギャラリーも歓声を上げた。
しかし、ラムズが剣を一振りすると、炎はろうそくの火が消えるかのごとく消滅した。
ラムズの前では赤子の手をひねるようなものだ。
フレムはラムズに走り寄り、続けざまに切り掛かった。
ロキよりも重い太刀筋であるのは、誰が見ても明らかだ。
ラムズは受け流しながら様子を見ていたが、スキをついて鋭く一撃を入れた。
フレアは吹っ飛ばされ、地面に倒れる。
一撃の衝撃で、ゲホゲホと咳き込んでいる。
「よく訓練しているね。攻撃の方はこの調子でいいだろう。防御はまだ改善の余地があるね。剣士はついつい攻撃を練習しがちだけど、生きて帰るなら防御は万全に越したことはないよ。」
ラムズはそう言って、レーザーソードをしまった。
フレアはまだ咳き込んでいたが、自分で立ち上がり、ラムズにお礼を言って、自分で土を払った。
そう、これが普通の手合わせだ。
ラムズは見学側にまわっていたロキに近づいて言った。
「ロキ、これからは私もロキの訓練に同行して、異能開発のチャンスがないか見ていくよ。明日は討伐予定だね。引率の先生やチームメイトもいるが、油断せずに。今日もしっかり休むように。」
「はい、よろしくお願いします。」
ラムズは別れ際に、ロキの頭をぽんぽん、とたたいた。
見てるこっちが恥ずかしい…
と、その場の全員が思った。
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