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第16話 ウェンとラムズ

アシュラス大帝国からの侵略戦争はあっけなく終わった。 姜王国の政治は大帝国との協議が必要なこと、地域と軍部の一部譲渡などの取り決めが行われた。 軍部の一部譲渡というのは、ウェンの部隊のことだ。 ある日、ウェンは大帝国の帝都に呼び出された。 アシュラス帝王の座る玉座の前に跪いて、挨拶をする。 「大帝国軍第一部隊、隊長リィ・ウェン、参上いたしました」 「ああ、ご苦労さん。最近どう?」 アシュラスは足を組んでよそ見をしながら聞いてきた。 「どうと言われましても…」 「噂によると、ウェン部隊は『敗戦の責があるくせに敵国に寝返った』とか言われてるらしいじゃん。かわいそうに。何もしらない民衆って残酷だよね」 アシュラスはウェンを見下ろし、ニヤニヤしながら言ってくる。 噂は本当で、酔っぱらいにからまれた隊員が、そう暴言を吐かれた。 「事実ですので。多くの戦士が死に、深い傷を負っている中、我々は恥ずかしくも生き延びました。祖国を犠牲にして、かわいい我が身を優先したと言われてもおかしくありません」 「あ、そう。そういうのを、賢明と言うのだけどね」 嫌味が通じなかった。 アシュラスとは根本から価値観が違うようだ。 「本題なんだけどさ、お前にあげたいものが二つある。一つはこいつ。俺の息子、ドレイクだ」 アシュラスの横に立っていた、壮年でオールバックの身なりのよい男が礼をする。 「お前んとこのナンバー1か2くらいで使ってほしい。大帝国との窓口だ。腕っぷしはイマイチだが、魔法解析と兵器運用が得意だ。姜王国の田舎臭いやり方じゃ先細りだからな。ドレイクを通じて最新に触れてくれ」 イラつく言い方だ。 「ウェン様、よろしくお願いいたします。」 ドレイクは深々と礼をした。 ドレイクは父親と違って礼儀正しいようだ。 「ドレイクは俺のことが大嫌いだから。お前とうまくやれると思うよ。ドレイクの母方の伯父が謀反を企てたから、関係者は全員公開処刑にして、少しでも協力した奴は財産没収で根絶やしにしたんだ。もちろん母親も殺したよ。そういうわけで、こいつは今なんの頼りもないんだ。面倒見てやってよ」 腐っても父親じゃないのか……。 胸糞悪かったが、言い争いをしている場合じゃない。 「で、次なんだけど。ドレイク、呼んできて」 ドレイクは1人の少年を連れて来た。 なんと、その少年はアシュラスに顔がそっくりだった。 黒髪に整った顔。 透き通るように白い肌。 青い目。 だが、生気を感じず、美しい人形のようだった。 「こっちも俺の息子、ラムズ。激似だろ。あまりに似てて気持ち悪いから、手放したいんだ。もらってくれ」 理由の意味がわからない。 「俺は政略のためにガキを増やしてんだけど、俺のような強い奴は今のところ生まれてない。逆に、俺の子だとわかると、逆恨みにリンチに遭って殺されたりするんだよ。かわいそうだよな」 まるで他人事だ。 「ましてこいつは珍しく顔がそっくりなんだ。俺だということで拷問動画とか出されても困るから、お近づきの印にとりあえずお前にあげるよ」 何を言ってるんだ、コイツは。 話についていけない。 「あとね、こいつ、しゃべれないんだ」 「しゃべれない?」 「今まで、誰とも一度も口をきいてないんだ。戦闘能力もさしてないし、本当、ゴミだよ」 「自分の息子に、よくそんな酷いことが言えますね……」 さすがに腹が立った。 「ゴミは言い過ぎか。俺への腹いせに殺してもよし。欲望の吐け口に犯してもよし。狂気の発露に壊してもいい。動画さえとらなければ。使い道があったから、ゴミは撤回するよ」 アシュラスはハハハと笑った。 全く話が噛み合わない。 「もういいです。お預かりします」 「預けるんじゃないよ。あげるんだよ」 「……ちょうだいいたします。」 この狂った男を見ているとムカムカしてくる。 早くこの場を去りたかった。 ♢♢♢ ドレイクは後ほど姜王国に転居することになり、ラムズはその日のうちに連れて帰るよう指示された。 アシュラスの城を出て、王都の街を歩く。 ラムズの背丈はウェンの腰の高さくらいだ。 人混みを抜けることになり、ウェンはラムズの手を握った。 か細い指だった。 「怖い思いはさせない。そこは安心して」 ウェンが声をかけると、ラムズはウェンの顔を見上げてうなずいた。 澄んだ青い瞳。 あんな化け物の息子とは思えない。 この子をちゃんと育てよう。 顔は同じでも、あいつと同じ運命は辿らせない。 ウェンはそう決意した。

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