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第30話 車内にて

「ラムズ!」 部屋を出たラムズをウェンが呼びとめ、近くの別の部屋にそっと入った。 「まず、無事で良かった。あの日の戦いぶりは、すごく立派だった。頼もしかったよ」 ラムズは、いつの間にか身長も伸びていた。 一緒ウェンの顔を見たが、すぐ伏し目がちになった。 「どうしたんだ?どこか調子が悪いのか?」 ラムズは首を横に振った。 前のラムズなら、表情や仕草を見れば、なんとなく心が通じているような気がしていた。 子どもなので単純だったのかもしれないが。 寮生活も始まるし、不安なのだろうか。 ウェンはラムズの頭をなでながら、抱きしめた。 「ラムズは器用になんでもできるから、新しい生活もちゃんとやっていけるさ」 ラムズはウェンの胸元から、ウェンを見上げた。 いつもの、大きくて澄んだ瞳だ。 ラムズもウェンの腰に手を回した。 「あと……ラムズと結果的に親子になれたのは良かったかと思ってる。俺は、ラムズと家族になれて嬉しいよ」 ラムズは小さく頷いたが、少し表情が曇った気がした。 「まあ、アシュラスももれなくついてきたわけだけど……。あ!夫婦っていうのは、俺は全然許可してなくて、あいつが勝手にやったことだから!」 そう言うと、ラムズはウェンの胸に顔をうずめて、ギュッと抱きしめてきた。 やっぱり、アシュラスのことが嫌なんじゃないだろうか。 そりゃそうだ、殺されかけてるんだ。 「ラムズのことは、ちゃんと俺が守るから」 ラムズは顔を上げた。 ちょっとほほえんでいる気がする。 ドアがノックされて、少し隙間が開いた。 「ドレイクですが……アシュラス……じゃなくて、アッシュが”絶対今ラムズとイチャついてるから、探して連れてこい”と、怒っています……。そろそろよろしいでしょうか……?」 「あ、うん、今行く……」 なんでわかったんだ? イチャつくっていっても、親子みたいなものだけど…… ウェンはラムズと向き合い直し、言った。 「環境は大きく変わるけど、ラムズにとってはかなりのチャンスだ。ラムズがどんどん強くなるのが楽しみだよ。」 ラムズは小さくうなずいた。 ♢♢♢ 訓練所の駐車場に車が用意されていた。 ドレイクが運転をして、ウェンとアッシュをひだまりの小屋に行くことになった。 小屋までは歩いて三十分の大した距離ではないが、せっかくなので乗ることにした。 運転席と後部座席には防音の仕切りがついている。 「俺は忙しい身だから、車内でも密談ができるようにしてあるんだよ」 運転手がいつ裏切るとも限らない。 それくらい帝王の仕事は危ういのだろう。  「これから、何をするつもりなんだ?」 「お前は俺の力に興味がある。俺はお前の反発する力に興味がある。それらを解明しよう」 「それはそうだが……。俺がお前の力に興味があるのは、それで部隊を強くしたいからだ。お前が暴君として調和を乱すならお前を倒すために」 「お好きにどうぞ」 アッシュは鼻で笑った。 「お前が、俺の力に興味があるのは何でだ……?正直、お前を倒すには、この間のように不意をついた攻撃をするくらいしか策はない。まして、親衛隊が戦いに加わったら勝てないだろう。わざわざ、俺のあやふやな力を解明しなくてもいいんじゃないかと思うんだが……」   アッシュはチラリとウェンを見た。 「俺が欲情した時に、いちいちお前に抵抗されたら面倒だからだ。そんな場面で親衛隊がいるのはおかしいだろう。まあ、お前が親衛隊の奴らともまぐわいたいと言うならそうするが」 「…………い、意味がわからない。そんな理由で??」 「お前のメリットの方が大きいんだから、協力しろよ。お前らは、自分の正義を貫きたいんだろ?」 「そうだ。お前をこのまま野放しにしとくわけにはいかない」 「はは。頼もしいね。せいぜい頑張ってくれ」 余裕しゃくしゃくといったところだ。 「ところで……お前は、俺の父親とどんな三年間を過ごしていたんだ?」 「どうって……。あそこでやれることなんて、限られてるだろ。お前とラムズの暮らしぶりと同じだよ」 「俺は……実はあまり父とは一緒に過ごしていないんだ。俺が本当に幼い頃だけだ。物心ついたあたりには、父と兄たちは戦地に行きっぱなしだったし、その後も父は内政の仕事も忙しく、たまにしか会えなかった。母は体が弱くて、俺がずっと看病をしていた。父に剣技を教わったこともないし、戦士の養成学校にも行けなかった。だから……三年も俺の父親を独り占めしていたお前が……うらやましいよ……」 何を言ってるんだ、俺は。 アッシュは今でこそ隣にいるが、また敵になるかもしれない。 そんな奴に、自分の弱みを見せるなんて。 「今度はお前が俺を独り占めできるんだから、いいだろ」 「…………よくない。お前を独り占めしようなんて、考えてないし」 全然話が噛み合ってなかった。 「フェイオンにも、色々事情があったのさ。それは、俺の力とお前の力に関係がある」 「……そうなのか?それって一体なんなんだ?」 「そうだな、無事に初夜を迎えられたら教えてやるよ」 アッシュがニヤッと笑って言う。 「……一生知らないままでもいいかな……」 ウェンはどっと疲れた。

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