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第31話 核と魔力とオーン
ウェンとアッシュはひだまりの小屋の近くの、ひらけた草地にいた。
アッシュが実際にやってみながら解説をしてくれるという。
「あまりに懇切丁寧で、逆に不安になるよ」
「夫婦は助け合うのが普通だろ?」
そうだけど、違うからモヤモヤする。
「まず、俺が専ら使う、この力のことは"オーン"と呼んでいる。なんにでも核があり、それをオーンが覆っている。そしてオーンの表面に魔力が走っている。魔力は加工がしやすいから戦闘に利用されやすいが、オーンを使った攻撃や防御には敵わない。オーンを使えば全てパワーアップできるが、オーンを使いこなす修行は難しい。だからほとんどの戦闘は魔力でやってることが多いんだ。」
アッシュは黒い炎をまとった。
「これが、魔力」
次に、蛇を出し、体に這わせた。
「これが、オーン。違いがわかるか?」
「…………全然わからない。」
どちらも禍々しく、高い攻撃力があるのはわかるが、なんの力が源になっているかは見分けがつかなかった。
「まあ、見るだけじゃな。お前らのいう"気"は、魔力とオーラをまとめて言っている。技によって、割合が違うようだ。『神速雷撃』はほぼ魔力。奥義と呼べる難しい技だが、俺くらいのレベルになればパクれる。一方、『神の箱舟』はオーンの割合が高くて、簡単には真似できない。意識して、気を練ってみろ」
ウェンは二つの技の構えをして、比較した。
「違うだろ?」
「………………」
「どうした?」
「………………全然わからない」
恥ずかしすぎる。
「マジかよ……鈍感にも程がある……」
あのアッシュから、笑われるならまだしも呆れられた。
「お前、誰に剣技を習ったんだ?」
「実は俺には師匠がいないんだ。母の看病の合間に聖典の写しを読んで、庭で自主練だよ。短期集中訓練が実施される時は看護人を頼んで参加できたけど……。武人資格の師匠欄には親父の名前で出した。でも、剣技はほとんど教わってないんだよ」
やっぱり、独学じゃ限界だったんだ……。
ずっと不安に思っていたことだ。
思わずため息が出た。
「信じられねぇ……あの聖典を読んだだけでやれるなんて……。ラムズですら、お前の見本があってなんだぞ……」
アッシュはそうつぶやいたが、ふと、何かを考えたようだった。
そして突然笑い出した。
「なんだよ! 何がおかしい!」
「フェイオンは教えなかったんじゃなくて、教える必要がなかったんだ。お前ができていたからだ。聖典をかいつまんで教える訓練校では凡な戦士が量産された。逆に訓練校に行けなかったお前は、聖典の写しを読み込んで技を完成させた。看病というハンデがお前と聖典を結びつけ、お前を天才にしたということだよ。皮肉だな!」
「……そうなのか?」
イマイチ言われていることに実感がない。
「お前はスタジアムで俺の技をことごとく破り、追い込んだじゃないか。そんなことができるのは、お前とお前の親父だけなんだぜ?お前は今まで比較が無かったから自分の凄さがわかってない。だから、自信が無かったんだ。まあ、お前は優しいから、比較があったらここまで伸びなかったかもない。人生わからないもんだ」
そう言われても、やはり自信はない。
「……これから学び直せば、また違うんだよな……?」
「ああ、俺に任せろよ」
アッシュは自信満々だ。
「今から俺のオーンをわけてやる。他のオーンが入ると最初は”異物”として認識される。その力の流れを追えば、自分のオーンがどう動いているかわかる」
「そんなことができるのか……」
「口うつしと、血を舐めるのどっちがいい?」
「……本当にその二択しかないのか……?」
「ヒーリングみたいに手をかざして影響することもできるが、自分の中にある力を観察するのだから、その程度じゃダメだ。直接オーンを注入する、この二択しかない」
アッシュの様子からして、ふざけているわけじゃないのはわかる。
が、めちゃくちゃ気が重い。
「どっちも初めてじゃないからいいだろ」
そういう問題じゃない。
「……血の方でお願いします……」
「選択させといて言うのもなんだけど、アレ、平気そうに見えて、結構痛いんだよな。魔道具のナイフで切ってるんだけど、魔術は痛みが伴わないと効果が強くならないからさ」
「………わかったよ……じゃあ、口からで……。教わる身だからな……」
非常に辛い。
「良心的な選択、感謝するよ」
アッシュはウェンの頬に手を添えて、ウェンを見つめた。
「”オーンを受け取る”ってイメージが大事なんだ。力むなよ」
「うん……」
アッシュの唇が触れ、舌先があたる。
少し息を吹き込まれた気がした。
なんとなく、銀色の輝く粉のようなものが胸に広がる感じがする。
治療でベッドにいたときもキスをされまくったが、確かにこんな感じだった気がする。
もしかしたら、アッシュはヒーリングよりダイレクトな治療をしてくれていたのかもしれない。
本当は、いい奴なんだろうか?
よくわからない。
そう考えていると、唇を舐められ、チュッと唇を吸われた。
アッシュの右手が後頭部にまわり、アッシュの熱い吐息を感じる。
舌が押し込まれ、重くどす黒いものを飲まされた気がした。
「なんか……っ!違くないっ?!」
驚いたウェンは、アッシュの手を振り払って突き飛ばした。
「そういうのはわかるのか。敏感なのか鈍感なのか、わかんねぇ奴だな」
アッシュは笑った。
そういうの、って何??
これからこんなのばっかりなのか……と思うと、また憂鬱がぶり返した。
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