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第32話 シータ

その後、『神速雷撃』と『神の箱舟』、『花吹雪』を比較した。 『神速雷撃』と『神の箱舟』はアッシュが言った通りのことが実感できた。 オーンが結晶し、攻撃技になる。 かたや『花吹雪』は他の技と真逆だ。 オーンは拡散し、薄くなっていく。 「俺が一番ダメージを受けるのは、実は『花吹雪』なんだ。フェイオンからボコられたときも、きっと拡散型の技を連続でくらったからなんだろう。『血の契約』、『血の鎖』が効かない理由もそこにあると思う。」 と、アッシュは言った。 しばらく、これらの技を出す瞬間を観察していくことになった。 ドレイクがアッシュをホテルに連れて行くために迎えに来た。 「ホテル住まいに関しては全然納得してねぇからな。早くひだまりの小屋で二人で暮らせるように準備しとけよ」 アッシュにクレームを言われる。 適当に返事をして、ドレイクの車にアッシュを詰め込む。 場凌ぎは今日くらいしかもたないだろう。 トホホ、とはこのことだ。 ♢♢♢ 夜は寮に戻り、隊員たちと夕食をとった。 ラムズの隣に座った。 目の前には隊員のシータが座り、シータの隣に副隊長のトトが座っている。 久々の大人数で話が弾み、楽しかった。 トトとシータは、ラムズにも積極的に話しかけていた。 シータは、他の体格のいい隊員と比べると一回り小さくて、線が細い。 ガンガンと攻撃するよりは、周りの様子に合わせてフォローする戦いをする。 頭脳派なこともあり、作戦の立案や訓練メニューの作成が得意だった。 「あの……アッシュ様については、隊長はどう思ってるんですか?」 難しい問いかけをされた。 「複雑すぎて、俺にはもうよくわからないよ。シータはどう思ってるの?」 「正直、戦争時に初めて会ったときは無茶苦茶怖かったです。本当に殺されると思いました。スタジアムのときも、やっぱり圧倒的な強さで、死ぬかもしれないと思ったんですが……。もし、味方になってくれたら凄く心強いと思います」 味方か…… 本当に味方なんだろうか。 アッシュの目的は今はハッキリわからない。 お互いの力の秘密はわかってきたし、俺の指導もしてくれるところだ。 味方といえば味方だが……。 「今でも怖いですけど、やっぱり強くなりたい自分がいるんです。もし、よければ直接話したいのですが……ダメでしょうか?」 あんな変態に積極的に興味を持つ隊員がいるとは驚いた。 しかもシータは一番入隊歴が浅い。 だからこその無邪気な発想なのだろうか。 「俺は構わないから、あとはアッシュ次第だね。チャンスがあったら声をかけてみて」 「ありがとうございます!」 シータは笑顔を見せて、頭を下げた。 「俺は……隊長とアッシュ様は、意外と合うと思うんです」 「合う……ってなんだよ」 本当に心外だ。 「隊長がアッシュ様の前で素になっているのを見て、隊長が本当は気さくで面白い人なんだな、って初めて知ったんです」 「そ、そうかな……。確かに、あいつには取り繕う意味がないというか……。そもそも俺、そんなに堅物に見えてた?」 「はい……。いつも悩んでらっしゃるようで、なんとなくこちらも緊張していました…。でも今は、全然違います! 俺は、スタジアムでアッシュ様と戦う隊長を見て、本当にカッコいいと思いました! それでいて、なんか、こう、普通な感じがいいと思うんです」 「嬉しいことを言ってくれてるのはわかるんだけど”普通な感じ”っていうのは……?」 「アッシュ様は、どんなにオーラを消しても、帝王だし絶対強い感じがあるじゃないですか。隊長は、なぜかあんなに強いのに強くなさそうに見えるんです。それってすごいことだな、って!」 「強くなさそう……」 そういう風に見えるんだぁ…… うん、まあ、うん。 そうかもしれない。 体ががっしりして、精神的にも落ち着いているトトの方が、見た目は強そうに見えるんだよな。 ラムズですら、戦闘の時の目つきは違うし……。 やっぱ頼りないんだな、俺。 「トトさんは、アッシュ様のことをどう思いますか?」 「俺は、恐ろしいの一言だよ。まだ何を考えているか読めないし」 ホント、そう。 「それに、いつの間に隊長とアッシュが仲良くなったのか、不思議でたまりません。殺し合いの二週間後ですよ?」 トトはしかめつらで言った。 「それは、俺も不思議に思うし、未だ意味がわからない。まあ、今はアッシュと普通に戦ったところで勝ち目はない、今のうちに力をつけて、万が一に備えよう……」 先に食べ終えたラムズが、四人分のお茶をとってきた。 「顔は全く同じなのに、中身は全然違いますね。やっぱり、環境が人格を作るんだなと……」 トトがラムズをまじまじと見て言う。 「そうなんだよ! それは、俺も確信した。ラムズはあいつとは全っ然違うから! お前たちもラムズのことは、ちゃんと可愛がってね!」 急なウェンの力説に、二人はびっくりした。 「ラムズも、この隊には信頼できる人しかいないから、遠慮なく、胸を借りるつもりでぶつかっていってね」 ウェンはラムズの頭をなでながら話した。 ラムズはウェンを見つめてコクンとうなずく。 これからアッシュ親子と関わって、ウェンは正気を保てるんだろうか……二人はそう思った。

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