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第一章 1

「ねぇー、こっちの道であってる? なんか周り人いなくなったけど」  と美雪(みゆ)が言う。緩いウェーブのかかったロングヘアに、ふあっと可愛らしい雰囲気のワンピース。 「んー? 間違えたかな」  スマホを見ながらぺろりと舌を出すのは、同じ顔をした美華(みか)。赤い色のショートヘアに、デニムのショートパンツ。  歳の頃は、二十代前半。顔は同じなのに、受ける印象はだいぶ違う二人。 「えー、ちょっと、大丈夫なのー?」 「大丈夫じゃないかも。ここスマホ使えないみたい」  えへっと言いながらも少し焦った表情をしている。 「とりあえず……来た道戻るか」 「そうだねー」  美雪も同意する。  同時にくるりと回転した。  その時突然、強い風が吹いた。 「きゃっ」  美雪が舞い上がりそうなワンピースの裾を懸命に押さえている。 「あーびっくりした! すごい風だったな」 「うんーーあれー?」 「ーーだな」  二人は顔を見合せて頷いた。 「なんだろーなんかいい匂いするよね、お花の匂いみたいな」  風は一瞬で止んだが、を運んで来た。 「こっちからだ」  くるっとまた美華が身体の向きを変え、香りのするほうへと歩いて行く。 「美華ぁ~ダメだよぉ。また迷子になっちゃう」  しかし、彼女は美雪の言葉が聞こえないかのように、そのまま鬱蒼とした木々の間に隠れてしまった。 「んもぉ!」  一人で迷子になるより、二人で迷子になるほうがまし! そう考え、慌てて美雪も追いかけた。  美華はすぐに見つかった。  木々に入って数メートルのところで立ち止まったいる背が見えた。 「美華ぁ~」  息を切らし、美華の肩に手を置く。  その肩越しに見えたものは。 「あ…………」  それ以上言葉が出ないと言う顔をして眼前を見つめる。  色取りどりの。  一面の薔薇。  風に吹かれ、舞い上がる花弁(はなびら)。  白い柵にも、門にも絡みついている花枝。  そして、その奥。  遠い先に見えるのは、古めかしくも豪奢な館ーーーー。 「何ここ……すごい」  まるで(いばら)が巻きついたように動かなかった二人の身体が、漸く少し解れた。 「薔薇園とか? なんか中世のお城みたいのあるし、テーマパークとか?」  雰囲気に飲まれているのはわかっているのに、空元気を出す美華に「えー」と不平の声を上げる。 「……誰かのお屋敷とか? お姫様とか住んでそう」 「お姫様? そっかー? なんかちょっと不気味な……」  こっちが美華の本音らしい。  怖いくらいに美しい。  それは美雪も同意見だった。  しかし、そう思いながらも、魅入られたように二人は近づいていく。 「いたっ」 「大丈夫? 美雪?」 「棘が……」  いつの間に鉄製の白い柵を掴んで中を見ていた。柵に巻きつく花枝の棘が、彼女の白い指先に傷をつくる。  美雪はちゅっと自分の指を吸った。 「どうしました? お嬢さん」 「えっ」  顔を上げると柵の向こうに一人の男が立っていた。  

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