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第四章 10
「素敵……」
アリスの唇から感嘆の溜息が漏れる。
「さすがSHIUさんだな。オレのイメージした通りだけど、イメージ以上っていうか」
完成した映像を初めて観るユエも感激したように言った。
「ユエさん、凄く綺麗でした」
「そう? ありがと。まあステージ衣装もゴシック調だし、違和感はないかな」
「いつもと曲の雰囲気も違いますね。凄く悲しい感じ……」
(それに……『滅びへの道』……って)
現実ではないのに、何故か今の彼らと符合するような気がして、ふるっと身体を震わせた。
「この曲と歌詞、バートリ・エルジェーベトのイメージで作ったんだ」
何処か妖しげな目差しをアリスに向ける。
「バートリ・エルジェーベト?」
先程感じた悪寒のようなものはまだ継続していた。アリスを見るユエに対してもそんなものを感じる。
「日本ではエリザベート・バートリって言ったほうが馴染みがあるかな」
「え……っと」
それでもわからなそうにしているアリスに、
「吸血鬼伝説の元になったと言われるハンガリーの伯爵夫人」
と説明をする。
怯えたような顔をしている彼女に続けて話を聞かせる。わざと怖がらせるような口調で。
「領内の農民の娘や下級貴族の娘を城に連れて来ては、拷問して最後には……。若い娘の血を浴びれば、自分の美しさを保つことが出来ると信じていた、狂った女だよ」
「えーっっ」
これ以上聞きたくないと言うように両耳に掌を当て俯く。
しかし、ユエはその耳許に顔を近づけた。
「実は……この洋館、その女の子孫が住んでいたって話……なんだけど。ほら……大階段にある黒いドレスの女」
塞いでいるのに聞こえてくる声。
アリスの脳裏に浮かぶ美しい女性の肖像画。
あれを見た時、自分はなんと言ったか。
『わぁ。素敵な絵ですね。綺麗な人』
そんなことを言った自分に後悔する。
「ここ、おれの母方の親戚筋の持ち物でさーーもしかしたら、おれにもそんな狂った血が……」
そこまで言って保護者が介入してきた。
「おい、ユエ~。余りアリスを怖がらせるなよ」
あははと今までの表情を一変させ笑う。
それを見てアリスはほっとした。
「ユエさん、嘘なんですか? ひどいっ」
ソウの言葉とユエの笑い声で、完全に自分は揶揄われただけなんだと、胸を撫で下ろす。
が。
「さぁ……どうかな」
ふふっと妖しげに微笑む。
話はそこで終わったが、最後の妖艶で妖しい笑みが頭にこびりついてその晩アリスはなかなか眠れなかった。
それに。
(あの時のユエさんの瞳……緑っぽく見えたのは、気のせい……? だよね、きっと……)
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