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第七章 5

「エリザベート・バートリ? 吸血鬼伝説の元になった?」 「そう。まあ、その話が『真実』かどうかは別として、ユエがそう思い込んでいたとしたら……」  成る程とウイは頷く。 「思い込みはずっとユエの中にあって、それがあの曲を作り出した……そして、MVの撮影に行ったこと、ヒビキの死なんかが重なって……ユエはだんだんおかしくなっていった」  憶測に過ぎないけどとウイはつけ加えたが、トワも同じことを考えていた。   「ユエは薔薇を投げ出した後、あの血溜まりの中に手を浸していたもんなぁ……無表情のままで……それから、気を失って……自分のしたことを何も覚えてなかった」 「ーー俺たちは引き寄せられるように、この館にやって来た。他に選択肢はある筈なのに、それしかないみたいに」 「そして、ユエはーー次々とその手を血に染め……それを全て『あの女』がやったと……」  二人の脳裏には壁に飾られている、黒いドレスの女の肖像画が浮かんでいた。 「ーーこれは運命かな。あの海辺の町で同じ日にいたオレたちは、その時からこうなる運命だったのかな」 『運命』という言葉に、くっとトワが笑う。 「『運命』と諦めて、何もかも受け入れてしまっている俺たちもーーもう、おかしくなってるのかも知れないな」 「……そうかもね。どうしてオレたちは逃げることもせずに、ここに居続けるのかーーこの先、」 (オレたちもいつかは……)  お互いわかっているから口には出さなかった。 「ソウにしたって、同居していた自分の従妹が犠牲になっても(おくび)にも出さないーーあいつは、ユエがすべてだから」 「俺だって」  言い掛けて止めたのは隣にいる男のことを考えたから。今までだったら当然『ユエがすべて』と断言していただろう。しかし、その考えも少し揺らいできたことをトワ自身も感じていた。  それを認めたくない自分も確かにいて。 「ーー俺……ユエになら、殺されてもいい……」  そう切なく呟いた。  この言葉を聞いていたウイも切なげに溜息を()いた。 ★ ★ (この先にあるのはーー滅びの運命……オレたちはここで……)  ウイは心の内でそう何度か繰り返した。  そして。  燻らせていた煙草をバルコニーの床に投げ捨てた。 「ほんとに、そうなのか……っ」  堪らず口から溢れる。  バルコニーの手摺りを両手でぎゅっと掴んだ。その手が白くなる程に。 「オレは……今までそれでもいいと思っていた。でも、今は違う。オレは……生きたい。トワと一緒に……!!」  押し殺した声で、それでも激しい想いの込められ言葉を放った。  その眼差しには強い決意がある。   (トワは今何処にいるだろう)  ウイは踵を返して、足早に部屋へと向かった。  

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