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第八章 2
「探しに……行くか」
トワは独りごちて手摺りから離れた。
ここ数日探してはいるが。
(そう言えば……ここには地下室があるらしいって、ウイが言ってたっけ)
ふと思い出す。
(確か一階の…………)
★ ★
「思ったより時間が掛かってしまった」
午前中から車を走らせたが、久しぶりの買い出しは思いの外手間取ってしまった。
加えて観光地を通る為渋滞にも巻き込まれた。
(もう……夏休みも終わった頃じゃないのか?)
既に月日の感覚がなくなっていた。
夏の始めに来た、従妹のアリス。アリスを連れて来てくれたハクト。
今はもうその二人もいない。
辛くないわけじゃない。
二人ともソウにとって大事な人間だ。特に従妹のアリスは、血の繋がりもあり、何年も一緒に住んでいた。
可愛い妹のような存在だ。
憐れな姿になった時、身を切られるように哀しかった。辛かった。
しかし。
それよりも。
(俺にとってユエは……いや、ユイは絶対だ。何ものにも代え難い。それが例え肉親でも……だ)
あの館にいることで、ユエは少しずつおかしくなっている。
それに気づいた時、ソウは皆を連れ出ようと思った。その時には既に管理人や家政婦の姿もなく、ソウが買い出しに行っていた。
自分は外に出れる。
不思議なことだが、他のメンバーは何故か外に出ることを躊躇していた。
それでも、ソウはユエに「たまには一緒に買い出しに行くか?」と何度か声をかけた。もし出れるなら、東京まで戻ることが出来るのではないかと。
しかし、ユエの返事はいつも「おれはいいよ。待ってる」だった。薄く微笑みながら。
ユエが、他のメンバーが、待っている以上自分だけが逃げ出すことは出来ない。果たして本当に外の世界に戻れるのかさえ、試したこともなかった。
そして、今日もソウは帰路に着く。
(……そう言えば……最近、ウイの姿が見えないような……)
漸く観光地から外れ鬱蒼と木々の繁る景色に変わって行く。
ソウはハンドルを切りながらふと思ったことに、胸が騒いだ。
トワと違って、ウイはわりと洋館内を彷徨 いていて、誰かを見つけてたは話し掛けてる。
最近はどうもトワと行動していたようなのだが。
BLACK ALICE活動中は、プライベートではほとんど接触はなく、ここに来てからもそれは続いていた筈だ。
(そうだ……あの夜、やはり二人の間には……何かしら、関係が変化する出来事が……)
ユエが眠った後、トワのことが気になり部屋を訪ねた。彼がどの部屋を使っているのか、ははっきりはしなかったが二階にいるのような気はしていた。サロン近くのを部屋からノックしていった。
当たらなければそれまでだと。
全ての部屋を回る気力はなかった。
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